海外情勢

コロナで欧州の「キャッシュレスの波」が“激流”に 深刻な社会問題も

 また英国ではスマートフォンを使って送金サービスなどを提供するアトム銀行やモンゾ銀行など新しい銀行が相次ぎ誕生した。欧州の金融関係者は「新型コロナは、欧州にあった『キャッシュレスの波』を『激流』に変えた」とする。

 一方でキャッシュレス化の進展は社会的な弱者への打撃になるともみられている。高齢者や低所得者の中には、スマホやネットを普段から利用しない人もおり、ATMの台数減少などで生活が不便になるからだ。英紙ガーディアンなどによると、55歳以上の消費者や低所得者はキャッシュレスから取り残される危険性がある。3千人を対象にした調査で、55歳以上の74%はスマホでネットバンキングのアプリを利用したことがなく、低所得者の57%も使った経験がないことが判明したという。

 田中理・第一生命経済研究所主席エコノミストは「キャッシュレス化が進む欧州諸国では、利用できない高齢者が取り残されることがすでに深刻な社会問題となっている国もある」と指摘。キャッシュレスが社会の常識となる中、「民間だけではなく政府の取り組みで全ての国民が利用できる仕組みを作ることが求められる」としている。

 またキャッシュレス決済にはサイバー攻撃のリスクもある。米紙ポリティコ(電子版)は「欧州中央銀行(ECB)はデジタル決済システムへの依存度が高すぎるとサイバー攻撃が発生した場合に壊滅的な障害にさらされるため、多くの国で段階的に現金を廃止することが金融システムに深刻な脅威をもたらすと警告している」と報じた。

 エストニアでは07年、隣国ロシアとの関係が悪化する中、大規模なサイバー攻撃を受け、銀行や政府機関の情報通信網がまひするなどの事態に陥ったことがある。危機管理の英専門家は「キャッシュレスのシステムがサイバー攻撃に襲われれば多額の金銭が失われる事態も起こりうる」とし、「各国の金融機関は政府と連携して、サイバー攻撃への防衛策を強化する必要がある」と強調した。

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