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業界取り巻く“負のループ” 日本文化支える企業コロナ禍でどうなる

 三味線は楽器であると同時に、伝統工芸品の側面も持つ。東京都の伝統工芸品に指定されている東京三味線の一部には、東京和楽器などメーカーから仕入れた胴や棹を組み立て、皮や糸を張って楽器として完成させているものもある。指定は職人の技術保護の一助になるものの、都によると、メーカーのつくった素材や技術は対象になっていないという。

 この間、邦楽器業界は国に働きかけ、24年度以来、中学校の音楽教育での邦楽器必修化を実現させた。製造現場では材料として代替品の活用が進み、大瀧さんらは現代の住宅事情にも配慮した練習用サイレント楽器なども考案して、三味線に触れる機会を増やそうと試みてきた。

 横浜市の長唄の三味線教室に通う高田朱美さん(47)は「普段は小売店としか接点がなく、メーカーの苦境は初めて知った。奏者自身も楽器がどのように作られているのか関心を持たなければ、知らないうちに技術が消え、伝統の音色が失われかねない」と戸惑いを隠せない。

 市場任せでいいのか

 大瀧さんは「複合的な要因があるなかで、新型コロナが廃業の踏ん切りをつけさせた」と話す。これは事業承継に不安を抱えてきた中小企業や、衰退傾向にある業種の経営者らにも共通し、民間信用調査会社の東京商工リサーチは、経営者が自主的に事業をたたむ休廃業・解散の件数が、今年は5万件を超えるのではないかと警戒感を強める。

 コロナ禍では、日本の文化を支えてきた企業や技術でさえも消えてしまうものなのか。

 民主党政権で官房副長官を務めた松井孝治・慶応義塾大学教授(統治機構論)は、「全てを市場原理に任せてはいけない」と指摘する。多くの政策決定過程に携わり、文化芸術に造詣が深いことでも知られる松井氏。三味線が活躍する歌舞伎や文楽は日本固有であることを例にあげ、「芸を支える技術が失われればいずれは文化そのものが消える。どれだけ歌舞伎や文楽が外国人に熱狂的に支持されても、支える技術が廃れてしまえば『オリジナル』がなくなってしまう」と危ぶむ。

 一方で、行政が支援に取り組むためには、それに見合う価値があるか選択を迫られることも指摘。「文化庁は見極める目を持った技芸員の養成に力を入れるなど、それぞれがなすべきことを考える必要があるのではないか」と語った。

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