海外情勢

「報道の自由」風前の灯火…中国、香港唯一の民主派紙に家宅捜索

 【香港=藤本欣也】香港で唯一の民主派寄りの新聞、蘋果(ひんか)日報が10日、警察の家宅捜索を受けた。当局が香港国家安全維持法(国安法)の導入で言論や集会の自由に制限を加える中、いよいよメディアへの捜査に着手、「報道の自由」にも圧力をかけた形だ。

 総勢200人が立ち入り

 香港・新界地区にある蘋果日報のグループ本社ビルに同日午前、家宅捜索に入った警察関係者は総勢約200人。創業者で同紙への影響力を保持する黎智英(ジミー・ライ)氏(71)の執務室や編集局内を調べ、ボックス25個分の資料を押収した。

 人口750万人の香港で同紙の発行部数は約10万部。ネット版の購読者数は約61万人と、香港紙のネット版の中で最大の購読者数を誇る。現在、中国資本が浸透した香港紙がほとんどを占める中で唯一、民主派支持の論陣を張っている。

 迫害、密航、天安門…95年に創刊

 黎氏は中国広東省出身。裕福な家に生まれたが、共産党政権の迫害を受け、1960年、12歳の時に1人で密航し香港に渡った。

 その後、アパレル企業を創業。89年の天安門事件の際に中国の民主化運動を支援した。中国政府との関係が悪化すると、95年に蘋果日報を創刊、これまで香港政府や中国共産党への厳しい論調を堅持している。

 97年には中国の元最高指導者、●(=登におおざと)小平氏が死亡する2カ月前の病床の写真をスクープ。今年に入ってからは香港警察幹部の不正行為などを特報してきた。

 こうした中で、同紙の羅偉光・総編集(編集局長)によると、同紙記者だけ香港政府高官の取材の際に排除されるケースが多いほか、中国本土での取材許可が認められないなど、中国・香港政府からさまざまな取材妨害を受けている。

 さらに国安法が施行されたことで、反政府・反中記事を書いた記者や編集者が「国家分裂」「政権転覆」の罪に問われかねない。

 「香港人のために声を。萎縮するな」

 黎氏は国安法施行前に、社員を集めて「蘋果日報は創刊以来、『自由と民主を支持する』という読者との約束を守ってきた。これからも香港人のため声を上げていこう。萎縮するな」と呼びかけている。

 羅氏も産経新聞の取材に、「市民の“知る権利”を守るためにスタンスを変えずに報道をしていく」と語っていた。

 民主派の立法会(議会)議員22人は10日、連名で声明を発表し、「国家安全を名目に報道の自由を踏みにじる粗暴な行為だ」と香港警察の対応を非難した。

 外国メディア、締め付けに懸念

 香港警察は10日、国安法違反容疑で香港メディアに対する捜査に乗り出したが、外国メディアも国安法の適用対象に含まれている。すでに外国人記者への管理が厳しくなったもようで、香港の外国人記者クラブ(FCC)は懸念を示している。

 国安法には、香港に新設された中国政府の出先機関「国家安全維持公署」が、外国メディアの管理を強化すると明記されている。

 FCCは今月6日、「多くの外国人記者の査証(ビザ)更新が大幅に遅れている」と明らかにし、「報道の自由への干渉は香港の国際的評価を傷つけるものだ」との声明を発表した。

 同公署が外国人記者のビザ管理にもかかわっているとの見方が強い。

 香港紙、蘋果日報の羅偉光・総編集(編集局長)も産経新聞の取材に、「国安法施行後、外国メディアは香港での取材を制限されるだろう」との見方を示していた。

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