海外情勢

北京で「防空壕」「空襲警報」 戦時演出、社会引き締めか

 【北京=西見由章】中国の首都北京で、国外からの空襲に備えて防空壕(ごう)の場所や空襲警報の詳細を住民に周知する動きが出始めた。対立が深刻化する米国などを仮想敵国とし、社会に“戦時”の雰囲気を醸成することで、共産党の求心力を高める狙いもありそうだ。

 産経新聞中国総局が入居する北京市のアパート構内では8月中旬、唐突に「人民防空シェルター」の場所を示す標識が新設された。

 掲示板では「事前警報」「空襲警報」「警報解除」の3種類について、サイレンの鳴動・休止時間の特徴を説明。警報が鳴った場合、入居者ごとにガスや電源、水道をとめ、指定シェルターに入るよう挿絵付きで対応を指導している。

 中ソ対立が深刻化した1960年代以降、中国は旧ソ連の攻撃を恐れて主要都市に防空壕や地下道を建設。北京市中心部では79年までに総延長30キロ余りの地下道を縦横に建設し、約30万人が収容可能とされる。

 80年代以降は防空施設の意義が薄れ、観光資源として一般開放も行われていた。ただ、江沢民元国家主席は米英など多国籍軍がイラクを空爆した91年の湾岸戦争を踏まえ、「地下工事は重要だ」と発言するなど、シェルター建設を重視していたとされる。

 北京の政治研究者によると、市内の別の居住区でも同様の活動が始まった。「『戦争に勝利する』など(愛国心を高揚する)近年のスローガンと関連した動きだろう」と分析した。

 産経新聞中国総局の近くに設置された標識は、防空壕の方向を示しているだけで具体的な場所は明示していない。アパート管理者に問い合わせたところ「必要な時は誘導する」とだけ回答した。記者が自力で入り口を見つけたが、内部の取材は認められなかった。

 北京の中国人記者は防空壕について「現代では何の役にも立っておらず、周知の動きは一種の(政治)宣伝かポーズだろう」と話した。

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