経済インサイド

サンマは今年も高値の公算 漁獲量増加や温暖化…不漁の要因は

 秋の味覚、サンマの不漁が続きそうだ。今年も本格的なサンマ漁のシーズンを迎えるが、水産庁が7月末に発表した8~12月の漁況見通しによると、日本近海に来るサンマの量は「極めて低調に推移する」というショッキングな内容。取れるサンマも、やせたものが多くなりそうだ。漁獲量が少なければ、店頭価格は高値継続が懸念される。庶民の味を代表する大衆魚に、暗雲が立ち込めている。

 東京の下町、足立区と葛飾区でスーパー2店を展開する「ベニースーパー」。足立区の佐野店では、サンマの販売価格は一昨年に1尾100円程度で、サイズも例年通りだった。だが、昨年は150~200円程度に値上がりした上、やや小ぶりになったという。

 この秋はどうなるのか。ベニースーパーの赤津友弥本部長は「サンマがあまり取れないとの見通しで、来店客に売れる価格にはならないかもしれない。期待をしづらい」と気をもむ。

 実際、水産庁が7月31日に発表した8~12月の漁況見通しは厳しい内容だ。来遊量が昨年より一段と少なくなるだけでなく、漁の主体で鮮魚売り場でよく見かける「1歳魚」の割合は低く、その平均体重も「昨年を下回る」とし、やせたサンマが多くなるという。

 さらに、群れが三陸沖まで南下する時期も例年と比べ1カ月程度遅く、10月下旬になるとの見立てだ。

 サンマは近年、不漁続きに直面している。日本の漁獲量は昨年、速報値で4万5800トンと過去最低に沈んだ。ピークの昭和33年から実に92%のダウンだ。

 国立研究開発法人の水産研究・教育機構は水産庁の委託を受け、漁況見通しの根拠となるサンマの分布量を探る調査を毎年6~7月に行っている。巣山哲主幹研究員は、今年のサンマ漁について「漁獲量が昨年を下回る可能性はかなり高いのではないか」とみる。実際にそうなれば、2年連続で過去最低を更新する。

 不漁の要因をめぐってはさまざまな見方がある。

 まずサンマの資源量そのものが減っていることだ。水産研究・教育機構によると、日本近海に来遊すると考えられる海域でのサンマの分布量は、調査を始めた平成15年は467万トンあったが、その後は減少傾向にあり、29年は最低の61万トンに落ちた。30年は153万トンまで戻したが、令和元年はまた72万トンに減った。

 機構は今年について、新型コロナウイルスの感染防止のため調査活動に制約があり、例年より得られる情報が少ないとして、サンマの分布量を示していない。それでも昨年より少ないのではないかとみている。

 サンマを取る国や地域が増えたことも挙げられる。現在は日本のほか、ロシアや台湾、韓国、中国、南太平洋のバヌアツがある。

 漁獲量全体に占める日本の割合は平成8年に約87%に達し、20世紀末までは80%前後だったが、今世紀に入って台湾の漁獲量が伸びたことや中国が24年からサンマ漁に加わったことなどから、令和元年の日本の割合は約24%まで低下。漁獲量も、平成25年以降は台湾が日本を上回っている。

 北太平洋のサンマは、日本など8カ国・地域がメンバーとなる北太平洋漁業委員会(NPFC)による資源管理の対象だ。しかし、今年は6月に札幌市で開催予定だったNPFCの年次会合が新型コロナでの影響で延期され、「日程はメンバー国・地域間で話し合っており未定」(水産庁国際課)という。日本は、近年の不漁続きは想定を超えるとして資源管理の強化を働きかけたい考えだが、その行方は不透明感が漂う。

 また、サンマは冷たい海域を好むが、地球温暖化の影響で日本近海の水温が高くなり、日本の漁場に入りづらくなっているとの指摘がある。さらに、サンマと同じ小型の動物プランクトンをエサとしており競合関係にあるマイワシが増えた結果、サンマが追いやられて分布域が狭くなっているといった見方も出ている。

 サンマ漁の中心は、日没から夜明けにかけて大型の照明装置で誘導する「棒受け網漁」で、漁獲量の99%はこの漁法で取られる。棒受け網漁の業界団体によると、今年は漁船の規模に応じて8月10、15、20日に順次出漁。関係者からは「実際に漁をしてみないと分からないこともある」との声もあるが、不漁が続けば店頭で高値が続きそうだ。

 ベニースーパーの赤津本部長は「サンマの大衆魚としての位置づけは変わらないと思うが、このまま取れなくなれば『(価格が)高い大衆魚』になっていくのではないか」と懸念する。サンマを食べて秋を感じるという習慣は、将来すたれてしまうのだろうか。(森田晶宏)

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