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コロナ禍で懸念される「複合災害」 急がれる中小企業の感染症対策

 参加者は現在、このアドバイスをもとに各自でタイムラインの策定に取り組んでおり、9月下旬には参加者からの個別の相談に応じながら、タイムラインをより実効性のあるものに仕上げていく。

 東商江東支部の担当者は「そもそも感染症だけでなく、自然災害を念頭にしたBCPでさえ、どこから手を付けたらよいのかがわからない、という企業の声が多い」と述べ、セミナーの意義を強調する。

 「難しく考えないで」

 実際、令和2年版中小企業白書によると、実際にBCPを策定している中小企業は全国でも20%程度しかない。昨年秋は、台風15号や19号など相次ぐ大雨などにより、全国各地で水害や土砂災害などが発生した。今年も、9月6~7日に台風10号が九州を暴風域に巻き込み、土砂崩れや停電などの被害をもたらした。近年、自然災害の発生件数が増加傾向にあり、自社だけでなく取引先を含めた企業活動への影響が懸念されている。

 新型コロナ感染症対策に向けたBCPの策定は、緒に就いたばかりだ。

 東京都荒川区は東洋大と共同で、感染症を念頭に置いた簡易BCPシートの製作に取り組んでいる。新型コロナ感染拡大に関する政府の緊急事態宣言が発令したとき、どんな対策を取っていたのかについて、区内の中小企業経営者への聞き取り調査を基に、来春の完成を目指している。

 とくに、町工場は建物自体も小さいうえ、数多くの工作機械と山積みされた材料に囲まれるかのように従業員が働いているところが多い。いわゆる「3密(密閉、密接、密集)」と隣り合わせの作業環境だ。切削や研磨、溶接などの加工では、機械や治具の取り扱いにおいて、経験やコツが必要なものも多く、熟練の従業員が長期間出勤できない状況は経営的にも大きな痛手となる。

 感染症のBCPは、策定のハードルが高いイメージがある。しかし、中小企業経営に詳しい東洋大経営学部の山本聡教授は「あまり難しく考える必要はない」と話す。

 例えば、飛沫感染防止のために透明のアクリル板の活用や、社内の動線を一方通行にする。工場近くに住む従業員は公共交通機関を使わずに出勤することにしたり、従業員を複数の班に分けて交代で出勤させたりすることなどは、多くの中小企業でも実施された。山本氏は「そうした一つ一つの取り組みを、どのタイミングでやるべきかを考えていけば、自ずとBCPができあがる」と指摘する。

 BCPでは、社員を生命の危機から守ることを最優先にするとともに、長期間の事業縮小や停止に備えた運転資金の確保が重要だ。すでに新型コロナ対応で疲弊している中小企業に対し、国や自治体の手厚い政策が望まれる。(経済本部 松村信仁)

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