高論卓説

中国アプリの不公平な利用実態 名を変え世界展開、他国製は国内制限

 中国政府は9月3~5日に海外のメディアを集め、武漢市の新型コロナウイルス感染症蔓延(まんえん)からの復興ぶりを宣伝する取材ツアーを開催した。既に武漢市は感染を完全に抑え込み、日常生活を取り戻しているという点を広くアピールする狙いで、取材を許可したものだ。この報道を見て筆者は、都市封鎖された武漢市の実態をユーチューブで、世界中に伝えていたフリーの中国人記者が、相次いで「行方不明」となったのを思い出した。(森山博之)

 また同8日にはコロナ対策の功労者に勲章を授与する式典が北京で催され、感染症との闘いで傑出した貢献をした模範的人物として、感染症専門家の鍾南山氏ら4人を表彰した。新型コロナの大流行の可能性についていち早く警鐘を鳴らしていた、眼科医で自らも感染し亡くなられた李文亮氏のことは触れられていない。さらに17日からは全14話のドラマ「最美逆行者」がCCTV(中央電視台)で始まった。感染対応にあたった、医療関係者やエッセンシャルワーカーなどの勇気ある行動や美談が、これでもかと登場するドラマのようだ。既にユーチューブにも公開されているので、中国国外からも見ることも可能だ。恐らくコロナ禍で中国国内に戻れない在外中国人などに向けて公開しているのであろう。動画へのコメントのほとんどが簡体字で書かれていることからも推察される。

 中国国内では、ユーチューブをはじめグーグルの検索などの多様なサービスが利用できないが、一方で中国のネット企業は米国や日本などにフリーハンドで進出してきた。中国国内で提供しているサービスと国外でのサービスとを分け、アプリケーションの名前も区別して提供するのが昨今の傾向だ。

 中国名の微信はWeChat(ウィーチャット)、釘釘はDingTalk(ディントーク)、抖音はTikTok(ティックトック)という具合だ。いずれも海外と中国国内のアプリは、利用者のいる地域で名前の異なる別仕立てのアプリとして提供されている。

 米商務省が、個人情報流出の懸念から動画投稿アプリのティックトックとウィーチャットの米国内での提供を禁止すると発表したが、その後状況は二転三転している。ティックトックは米ソフト大手オラクルなどと提携合意に達したが、経営の主導権の問題などで混乱が生じている。

 微信は中国人のほとんどが利用しているキラーアプリで、そのテレビ会議機能が今回のコロナ禍の下、中国国内での在宅勤務の普及に貢献した。グループでのテレビ電話機能が備わっており、テレビ会議をするために、新たに機器などを導入する必要がない。中国外で中国とのテレビ会議でZoom(ズーム)を利用しようとしても、中国側でブロックされているため、代わりにウィーチャットを使わざるを得ないのが現状だ。

 CCTVのテレビ番組をはじめウィーチャットのようなコミュニケーションツールまで、中国側の都合が優先された「一方通行」の流れが続いている。日本国内でユーザーが7800万人いるLINEは中国国内では使えないし、韓国のカカオトークも同様に制限されている。

 われわれが中国外で日常利用しているネットサービスやアプリは中国では使えないが、中国製のものに関しては中国外でも使える。このような不公平な制約のおかげで、中国アプリが成長してきたともいえる。米国の中国アプリに対する一連の措置が、いびつな状況を是正する動きにつながることを期待したい。

【プロフィル】森山博之

 もりやま・ひろゆき 旭リサーチセンター、遼寧中旭智業研究員。早大卒後、旭化成工業(現旭化成)入社。広報室、北京事務所長などを経て2014年から現職。大阪府出身。

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