高論卓説

米国の分断と外国勢力の工作 大規模騒乱に発展すれば国力低下必至

 米大統領選挙が終わっても、米国内の分裂と分断は深まるばかりである。国民の所得格差が拡大し、富裕層に対する反感が一部で先鋭化していたことに加え、新型コロナウイルス勃発によってもたらされた不況と失業が社会の不安定化に拍車を掛けている。(杉山仁)

 米国におけるコロナ禍が国民に与える危機感と切迫感は、感染者数と死亡者数の単位人口当たりの数字を見ても恐らく日本の百倍以上ではなかろうか。こうした状況に加え、5月の黒人暴行死事件をきっかけに人種差別問題も過激化が進み、人種に絡む暴力事件が各地で頻発している。在住の日本人もこうした事件に巻き込まれるケースがあるという。

 筆者が以前住んだ米国は今では違う社会になってしまったようにも見える。大統領選挙前後の保守派とリベラル派の激しい対立の様子は、同じ国民であっても、根本的な世界観が全く異なっていることを浮き彫りにしている。最新の現地アンケートによると、対立する党派に対しては、暴力の行使も選択肢の一つであるという極端な考え方も増加しているという。米国の識者の一部には、現在の分断状況は19世紀の南北戦争の直前の状況に似ているとの見解がある。またこうした分断を促進するため、外国勢力が資金援助と情報工作を行っているのは明らかである。

 現在の米国に限らず、国家のこうした分断状況に対し、外国勢力が対立の促進を工作することは過去の歴史を見てもよくあることである。幕末期、江戸幕府に対する倒幕運動が長州藩と薩摩藩を中心に起こされた。この時、フランスは江戸幕府に対し武器の有償供与を申し入れる一方、英国は反幕府勢力に対し、武器商人を通じて、資金と武器の提供ばかりか、藩士の英留学も手配したことは史実である。こうした外国勢力により日本に対して提供された武器の一部は、同時期に終結した米国の南北戦争の中古武器であった。英仏とも日本の内乱を促進することにより、大量の武器販売による利益と、政治的影響力の拡大を狙っていたのである。

 もう一つの例は日露戦争時における日本軍の明石元二郎大佐によるロシア革命促進工作である。明石大佐は、日露戦争開始の2年前、反露活動が活発なフィンランドとポーランドにおいて活動を開始し、反露勢力の指導者と面談し、資金を提供し、ロシアに対する武力蜂起を促した。反露工作のうちで、明石大佐の最大の功績は、1905年1月、ロシアの首都サンクトペテルブルクにおいて、いわゆる「血の日曜日事件」を引き起こしたことである。明石大佐はニコライ朝打倒を画策していたギリシャ正教のガボン神父に接近し、資金を提供し、首都における大規模デモを実行させたのである。穏健な請願デモであったのが、宮廷を守る近衛部隊が、デモ隊に対して武力行使を行い、デモ隊の婦人、子供を含む大量の犠牲者が発生したことによって、一気に革命ムードが広まり、国内で大規模な騒乱が頻発した。

 このため日露戦争の満州における決戦である奉天会戦(1905年3月)を前に、ロシア国内やポーランドからロシア軍兵士を満州に増員派遣することができなくなり、奉天会戦におけるロシアの敗北の一つの要因とされている。

 国が分断すると、外国勢力の介入を招く例を挙げてみた。 

【プロフィル】杉山仁 すぎやま・ひとし JPリサーチ&コンサルティング顧問。1972年一橋大学卒、三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。米英勤務11年。海外M&Aと買収後経営に精通する。経済産業省の「我が国企業による海外M&A研究会報告書」作成に有識者委員として参加。著書に「日本一わかりやすい海外M&A入門」のほか、M&Aと買収後経営に関する論文執筆や講演多数。

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