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生産現場にもリモート化の波 自宅で遠隔監視、AI活用し故障予知

 【経済インサイド】

 新型コロナウイルスの感染拡大で、事務職や営業職の社員が出社せずに自宅から遠隔で仕事をするリモートワークの利用が広がっている。一方で設備を動かす工場で働く社員のリモート化は難しく、製造業の現場で課題となっていた。そんな中、遠隔監視やAI(人工知能)を活用し、工場のリモート化に取り組む動きが出ている。コロナ禍を機に、生産現場でも働き方改革が広がろうとしている。

 「トナー充填(じゅうてん)機のポンプの圧力を調整した方がいい」

 11月上旬、神奈川県厚木市のリコー厚木事業所では、在宅勤務の社員が遠隔で工場の稼働状況を確認し、ビデオ通話で現場の社員にこう指示していた。

 プリンターのドラムユニットやトナーカートリッジを生産する同事業所ではコロナの感染拡大以降、こうした光景が当たり前となっている。

 リコーは働き方改革を推進するため、昨年から工場でリモートワークを導入したが、コロナの感染が拡大した今年4月から本格稼働させた。

 リモート化を支えるのは自動化とデータ活用だ。厚木事業所のドラムユニットやトナーカートリッジの生産ラインには約200台のロボットが並び、各工程で絶え間なく稼働している。部品は無人機が運び、工場内に社員の姿はまばらだ。

 生産ラインには数多くのカメラやセンサーが据え付けられ、大量のデータが収集されている。それをもとに製品の品質や設備の稼働状態、故障の予知をグラフで可視化している。

 リコーの生産子会社、リコーインダストリーOP生産事業部の吉井孝之室長は「在宅の社員が可視化されたデータや画像、動画を分析して問題点を判断し、現場に解決策を指示している」と説明する。また、現場に人を出さないため、AIを活用し、設備故障の予兆などを検知してトラブルを未然に防ぐ取り組みも行っている。

 厚木事業所は約1800人の社員が働いている。緊急事態宣言が発令されていた4月は、一部で生産を停止し、出社率は約2割だった。宣言が解除されても出社率は約6割にとどめ、その水準を現在も維持している。

 リモート化が難しいとされてきた生産現場は約7~8割の水準だ。リコーインダストリー経営管理本部の菅野和浩本部長は「現場は人が作業しないといけない部分がまだ多いが、デジタル化の推進で出社率を抑えられることが分かってきた。さらに自動化を進めれば、もっと下げられる」と自信を示す。

 工場のリモート化の動きは他の業種にも広がっている。ビール大手のアサヒグループホールディングスも国内15工場で、ビールの発酵状態の確認や生産工程の管理、設備の稼働状況などを自宅で遠隔監視するシステムの導入を検討している。

 ガラス大手のAGCは遠隔監視システムだけでなく、AI活用に力を入れている。平成29年から工場で発生した不具合やベテラン作業員による対応をデータとして蓄積し、AIで最適な解決方法を示すシステムを開発し、導入している。これにより、ベテラン社員のリモートワークが可能になった。来年にはシステムを多言語対応することにしており、海外の工場にも活用を広げる。

 一方、東芝は社員の密集を避けるため、7月から府中事業所(東京都府中市)など国内5工場で週休3日制を試験的に順次導入している。これまで社員は週5日出勤し、1日当たり8時間働いていた。勤務時間を2時間増やすことで、平日に1日休みを設けて週休3日制にしている。

 東芝は他工場にも広げて、本格的な導入を検討しているが、「保育園のお迎えや親の介護ができないという課題も見えてきた」(広報部)という。緊急事態宣言の発令時と比べ、制限が緩和されていることもあって、本格導入に踏み切るか決めかねている状況だ。

 コロナ対策として、製造業の現場ではさまざまな取り組みが行われているが、緊急事態宣言解除後に、工場を通常通りの稼働に戻した企業も少なくない。ただ、工場のリモート化は働き方改革やデジタル化の推進にもつながる。今後、コロナ対策にとどまらず、生産性向上のために導入が広がる可能性もありそうだ。(黄金崎元)

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