海外情勢

バイデン氏は「核なき世界」継承も「縛られず」 核兵器禁止条約発効 

 【ニューヨーク=上塚真由】核兵器の保有や使用など幅広い活動を禁止する「核兵器禁止条約」(核禁条約)が22日、50カ国・地域で発効した。ただ、条約参加国は中南米やオセアニアなどの小国や島国が多く、米国、ロシア、中国など核保有国や、日本など米国の「核の傘」に依存する国は参加せず、「条約には縛られない」との立場を貫く。核兵器を違法化する初の国際条約が、世界の核軍縮交渉にどう影響を与えていくかが焦点となる。

 国連のグテレス事務総長は22日、核禁条約発効について「核兵器のない世界という目標に向けた重要な一歩だ」とビデオ声明で歓迎した。被爆者らによる悲惨な体験の証言が「条約を支える道徳的な力になった」と述べた。

 グテレス氏はまた、国連として核兵器の廃絶を最優先事項として取り組むと強調するとともに、核禁条約発効から1年以内に開催される第1回締約国会議に向けた準備を進めていく考えも明らかにした。

 条約に参加しなければ順守義務は発生しない。条約の実現に向けた運動を進めてきた国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)は今後、批准国を増やすことで、核保有国に対して国際的な圧力をかけて核軍縮に向けた具体的な行動を迫る方針だ。しかし、米中露の軍事的対立は激しさを増しており、核抑止力に依存する核保有国やその同盟国を動かすのは容易ではない。

 米国は民主党のオバマ元政権時から「世界の安全保障環境を考慮していない」として核禁条約に反対の立場を貫く。バイデン大統領は昨年8月、「広島、長崎の恐怖が二度と繰り返されないために、核兵器のない世界に近づくよう取り組む」と述べ、オバマ政権が掲げた「核なき世界」の理念を継承するとしたものの、保有核の削減などの具体策は示していない。当面は、2月5日に期限切れが迫るロシアとの新戦略兵器削減条約(新START)の延長交渉で合意できるかが新政権の課題だ。

 また、今年8月に開かれる核拡散防止条約(NPT)再検討会議も試金石となる。NPTは1970年に発効し、190以上の国と地域が参加。米英仏中露に核保有を認める一方、「誠実に核軍縮交渉を行う義務」を課し、核軍拡競争の抑制に一定の役割を果たしてきた。だが、前回2015年の再検討会議では、中東非核地帯構想をめぐり、事実上の核保有国であるイスラエルの後ろ盾の米英と中東諸国が対立し、協議が決裂。2回続けて合意文書を採択できなければ発効以来初で、NPT体制の弱体化は避けられない。

 核禁条約について推進派は「NPTを補完するもの」と位置付けるが、核保有国側は「NPTに基づく軍縮プロセスを損なう」と反発。「NPT体制と、核禁条約という2つのグループができたことで、世界の軍縮協議が複雑化し、分断化される恐れがある」(専門家)と実効性を疑問視する声も上がっている。

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