オーケストラの多くが経営の危機に…目標金額1億円、手探りのクラウドファンディング
今、この国のオーケストラの多くが経営の危機にさらされている。新型コロナウイルス感染拡大で、年間に予定していた公演の半数以上を失った団体も珍しくなく、軒並み、数億円単位の収入減に頭を抱える。それでも未来にオーケストラ音楽を伝えたい。活路として期待されているのが寄付をインターネット上で集めるクラウドファンディングだ。地元企業の協力を得ながら初挑戦して、新たなファンを獲得しようとする動きも広がっている。
損失は2億円
「目標額に届かなかった場合、オーケストラのイメージが悪くなるのではないか」「身の程知らず、世間知らずと思われるのではないか」
昨年12月、1億円もの目標額を掲げてクラウドファンディングを始めた大阪フィルハーモニー交響楽団。開始前の楽団内では「目標金額が高すぎる」との声もあり、議論が交わされた。
目標に届かなければ支援金が返納される達成型ではなく、未達でも寄付される仕組みとはいえ、先行してクラウドファンディングを始めた札幌交響楽団や山形交響楽団など各地のオーケストラの寄付額が約2000万円台だったのと比べても破格だったからだ。
「迷いました。届かなかった場合、失敗というイメージもつくかもしれない。でもこの1億円という数字に、私たちの危機感を知ってほしかった」
大阪フィルを運営する大阪フィルハーモニー協会の松村隆常務理事はこう胸の内を明かす。令和2年度、約50件の公演が中止となり、2億円の収入減となった。キャンセルした公演の中には、感染拡大が少し落ち着いた8月に予定していた、チケット完売の人気公演も含まれている。当時、コンサート会場の収容制限が「定員の50%以下」だったため、泣く泣く取りやめた。
地元企業もサポート
大阪フィルの寄付者へのリターンとよばれるプレゼントには、コンサートの年間パスポートやリハーサル見学の権利、スペシャル動画などのほかに、チョーヤ梅酒(大阪府羽曳野市)の梅酒や、牛乳石鹸共進社(大阪市城東区)のオリジナルケース付きの石鹸、乃が美ホールディングス(大阪市天王寺区)の高級食パンなど、在阪企業が提供した商品も添えられている。松村理事は「今回協力いただいた企業の多くはクラウドファンディングを通じて初めてご縁をいただきました」と感謝する。
実は、これら企業と大阪フィルをつなげたのは、野村証券。同社はコロナ禍で大きな影響を受けた国内各地の文化・芸術分野の事業者を支えようと昨年、「地域応援プロジェクト」を立ち上げ、大阪支店では縁ある在阪企業に声をかけ、支援を訴えた。
牛乳石鹸共進社は協力の理由について、70年以上、大阪で活動を続ける、日本屈指の老舗オーケストラの大阪フィルに対する敬意をあげる。「人々の生活を豊かにするために長年活動を続けてきたことに強く共鳴した」という。また、チョーヤ梅酒も「大阪フィルのファンに弊社の商品に親しんでもらうきっかけにもなる。相乗効果を期待したい」と話す。
企業と大阪フィルの橋渡しに奔走した野村証券大阪支店営業部の山本泰正部長は「大阪の芸術文化、地域経済の活性化につながるクラウドファンディングになれば」と話す。締め切りは3月21日。3日現在で1500万円以上が集まっている。
ファンの熱量を力に
8月からクラウドファンディングをスタートし、締め切った昨年12月までに、約2100万円の寄付を集めた関西フィルハーモニー管弦楽団にも楽団を支援する理事会社が全面的に協力した。大和証券はグループ会社がシステムを提供。また、サントリーはウイスキー、阪急阪神ホールディングスは宝塚歌劇オリジナルマスク、そしてダイキンは空気清浄機などを寄付のリターン品として出した。
「寄付でなんとか今シーズン乗り切れる」
浜橋元専務理事はこう吐露する。
約60公演がキャンセルとなり、損失も2億円近くにふくらんだ。今年度は寄付金に加え、国の助成金や補助金でなんとかしのぐ。ただ、コロナ禍で法人会員の減少は食い止められず、来年度への不安は拭いきれないのが実情だ。今回、大きな力となったクラウドファンディングも、寄付を募るだけでは毎年行うわけにはいかないだろう。
「とはいえ、手探りの中での挑戦で、800人以上の人からの寄付が集まったことに希望を見いだしたい。多くの方が支援してくださり、企業の支援も受けることができた。ファンの熱量を、クラウドファンディングで確かめられた。それを何とか、次の活動につなげたい」
苦境に立たされているオーケストラにとって、クラウドファンディングで見つけた新たなファンの鉱脈をどう生かせるかが、今後の課題となりそうだ。