生かせ!知財ビジネス

イノベーション促進で東北復興後押し

 日本弁理士会・清水善広会長に聞く

 東日本大震災から10年。特許の出願件数は震災前の水準に戻るなど、東北地区の知財分野の復興も進んだ。今後はスマート農業といった新たなイノベーションへの対応が必要となるが、弁理士が果たすべき活動、役割について日本弁理士会の清水善広会長に聞いた。

 --震災後10年、東北6県の知財の状況は

 「国内特許出願件数が減少する中、東北では政府支援もあり増加傾向にある。今は震災前の水準に戻り復興を感じる。中でも弁理士不在県で件数が東北で最下位だった青森県は弁理士会が2010年に青森事務所を設置。震災後、県内の特許事務所が7カ所、弁理士数が9人へと増え、17年には2位へ躍進した」

 --弁理士会は復興をどう支援してきたのか

 「無料相談はもとより、被災者向け特許出願等復興支援制度を設け、125件で費用を援助。地域団体商標の登録費用も支援。特許庁などと共催で学生・生徒の発明・意匠を表彰するパテントコンテスト・デザインパテントコンテストに震災・復興応援賞を加えた」

 --支援の中で感じた復興への知財面の課題とは

 「知財を獲得、活用する知財人材の不足だ。東北6県の弁理士数は59人、全国の0.5%と少ないだけに企業内の知財人材育成が必要。弁理士会は昨年11月、福島県の中小企業向けにJPAA知財塾を開講。実践的スキル習得を目指す中級者向けだ。今後、拡大していきたい」

 --知財人材の不足は特許出願にも影響する

 「権利化だけではなく、実務面では活用や戦略も重要。弁理士会は19年12月、福島県で課題解決型マッチングサービスを始め、中小企業が求める課題解決技術を持つ連携先の探索、照会を支援している。知財の専任者がいない中小企業を想定し、オープン・クローズや知財ポートフォリオ構築、知財ミックスなどの戦略面でも弁理士の能力を提供している」

 --今後の東北復興をどう見る

 「復興は失ったものを元へ戻すことが大切だが、福島イノベーション・コースト構想のように新たなイノベーションを起こすことも重要。国の弁理士制度小委員会では、農林水産分野での技術革新が進む中、弁理士による対応促進が議論された。例えばスマート農業は種苗だけでなく特許、AI(人工知能)、データ、契約を含め、幅広い知識が必要。新しい農業は東北の復興にも生きるはずだ。またコロナ禍で第4次産業革命が加速。まさに知財で国力を上げなくてはいけない局面にいる。経済・産業の発展に資するべく、われわれも新分野に挑戦していきたい」(知財情報&戦略システム 中岡浩)

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