ビジネスアイコラム

行き詰まるロシアの反体制運動 「民主主義はカオス」のイメージ阻む

 度重なる反政権デモや欧米の制裁にもかかわらず、反体制派への厳しい抑圧姿勢を続けるロシアのプーチン政権。経済も低迷し、支持率の低下が指摘されるものの、その姿勢が変化する気配は感じられない。なぜ強硬姿勢を続けられるのか。反体制派への支持が広がらないのはなぜか。旧ソ連ウクライナの専門家は、ソ連崩壊後にロシア国民が抱いた民主主義への「誤った認識」が、ロシア社会の硬直化を招いていると指摘する。

 ロシアでは昨夏に毒殺未遂事件に遭い、ドイツで療養していた反体制派ナワリヌイ氏が帰国直後に当局に逮捕されたことを受け、全土で大規模な反政権デモが展開された。1月31日のデモではモスクワのほかサンクトペテルブルク、エカテリンブルクなど90都市以上で展開され、当局は5000人超を拘束。激しい衝突の様子が各国のメディアで報じられた。

 しかし、モスクワの裁判所は2月2日、同氏の執行猶予を取り消して実刑に切り替え、ナワリヌイ氏は刑務所に収監された。米欧はロシアを非難し、新たな経済制裁にも踏み切ったが、プーチン政権は「内政干渉で受け入れられない」と一蹴するなど、態度を軟化させる様子は見せていない。

 一方、同26日に露独立系機関「レバダ・センター」が発表した世論調査では、プーチン氏の支持率は65%で、前月の64%から微増した。2014年のクリミア半島併合後の8割超の熱狂的支持には及ばないが、安定的な支持を得ているのが実情だ。「ロシアは正しい方向を進んでいるか」との問いも49%が「正しい」と答え、「正しくない」の43%を上回った。

 民主派が支持を集めない理由はどこにあるのか。ウクライナの政治学者で、現在は日本に在住するグレンコ・アンドリー氏は「ソ連崩壊後に民主主義国家として誕生したはずのロシアの社会や経済が、1990年代に深刻な混乱に陥り、民主主義=カオス(無秩序)というイメージが定着したことが背景にある」と分析する。

 ソ連崩壊後、資本主義への転換を進めたロシアだが「ショック療法」と呼ばれる急激な価格の自由化や、独占体の解体・私有化といった経済政策が進められる中、1000%に達するハイパーインフレや生産の急減に見舞われ、国民の生活は大混乱に陥った。「あの時代に戻るなどもってのほか」との意識がロシア国民にあるというのだ。

 グレンコ氏は、そもそもロシアは本物の民主主義を経験していないとも語る。80~90年代の政治闘争において、本物の民主主義の価値観を持っていた権力者はいなかったという分析だ。

 ソ連共産党書記長、同国大統領を歴任したゴルバチョフ氏と激しく対立したのが、ソ連崩壊後のロシア大統領に就任したエリツィン氏だった。

 グレンコ氏は、エリツィン氏がゴルバチョフ氏との対立軸を作るため“理論武装”として掲げたのが民主主義だったと指摘し、その内実は極めて乏しいものだったと述べる。エリツィン氏の下で、ロシア社会は大混乱に陥った。エリツィン氏の支持率は急落し、民主主義に対する拭い難い嫌悪感がロシア人の心に植え付けられたというのだ。

 グレンコ氏は、反体制派の活動方法にも疑問を投げかける。現在、ロシアの反体制派支持者は人口の1%にも満たないといい、現体制を脅かすにはあまりに少ない。そのような中でデモを強行したことで、当局はむしろ「最新の通信・撮影技術を活用し、反体制派を割り出すことができた」と分析する。現在は逮捕しなくても、「今後の監視対象とすることが可能になってしまった」と断じる。

 ナワリヌイ氏陣営では主要幹部が軒並み刑事訴追され、ナワリヌイ氏自身も出獄が見込めなくなる中、陣営は抗議活動をいったん停止する方針の表明を余儀なくされた。グレンコ氏は「民主主義になれば社会がどうなるか分からないといわれたら、人々は独裁を選ぶ」と指摘し、仮に有権者が積極的に支持しなかったとしても、「彼らが政治にかかわらなければ、それだけで体制は維持される」と結論している。(黒川信雄)

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