真山仁の穿った眼

なぜ、東芝は幻想から抜け出せないのか アクティビストの餌食となった“名門”

真山仁
真山仁

 上場というステイタスを優先

 本稿では、この問題の背景にある東芝の体質について取り上げたい。

 2015年、同社の長年にわたる不適切会計(事実上の粉飾決算)が発覚して、会社は経営危機に陥った。コンプライアンスが徹底されている近年の市場経済の中で、その隠蔽体質は異常といえるほどだったが、その動機が情けなかった。

 すなわち、経営者としては、株価が高いことがステイタス。だから、株価を下げないように決算額を調整して、会社ぐるみで、不適切な会計を行ったのだという。

 バブル経済が破綻してから、外国人投資家が大量に雪崩れ込んできた結果、株価こそが、企業価値の唯一の指標になった。

 企業が苦心惨憺(さんたん)で株価向上に躍起になるのは、株価の高さが、成功している企業の証だという認識が、「常識」になったせいだ。

 しかし、企業はそもそも株価を上げるために存在する訳ではない。

 ましてや東芝は、最先端の半導体の開発から原発、コンピューター、電車に至るまでを製造してきた重電メーカーの名門だ。

 彼らが、心血を注ぐべきなのは、消費者の期待に応える上質な製品をつくり続けることだ。なのに、経営者は、見栄のために株価ばかりに目がいった。

 それが原因で、倒産寸前まで追い詰められ、利益を上げられる事業を次々と売却した。

 ここ1、2年で、ようやく再生への道を辿り始めたと思っていたら、もう再上場している。なぜ、そんな拙速に慌てているのか。

 無論、社内外のさまざまな事情があるのだろうが、製造業の名門としての矜恃に立ち返るより、上場というステイタスを優先しているのが残念だ。

 慌てて上場するから、アクティビストの餌食となり、挙げ句が買収提案まで起きる。

 株価より、モノづくり! 

 製造の当たり前を思い出して欲しい。

昭和37年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科を卒業後、新聞記者とフリーライターを経て、企業買収の世界を描いた『ハゲタカ』で小説家デビュー。同シリーズのほか、日本を国家破綻から救うために壮大なミッションに取り組む政治家や官僚たちを描いた『オペレーションZ』、東日本大震災後に混乱する日本の政治を描いた『コラプティオ』や、最先端の再生医療につきまとう倫理問題を取り上げた『神域』など骨太の社会派小説を数多く発表している。初の本格的ノンフィクション『ロッキード』を上梓。最新作は「震災三部作」の完結編となる『それでも、陽は昇る」。

【真山仁の穿った眼】はこれまで小説を通じて社会への提言を続けてきた真山仁さんが軽快な筆致でつづるコラムです。毎回さまざまな問題に斬り込み、今を生き抜くヒントを紹介します。アーカイブはこちら

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