海外情勢

少数民族共闘もNLD不信消えず ミャンマー、反国軍では一致

 国軍による大量虐殺が続くミャンマーで、少数民族武装組織同士が連携を深める動きが広がっている。圧倒的な火力の前には歯が立たないことから、統一組織を結成してゲリラ戦を強化しようという試みだ。クーデターで追われた前政権の国民民主連盟(NLD)からの秋波に対しても、協議に応じる姿勢を見せる。しかし、少数民族側では反国軍という一点から結束はできても、必ずしも全面的な協調とはならないようだ。背後には長年、翻弄され続けてきたNLDへの不信がある。タイ側で暮らす複数の少数民族を訪ね、複雑な胸の内を聞いた。

 ビルマ族優先を批判

 ミャンマー北部シャン州。タイと国境を接するこの地を拠点とするのが、国内で2番目に人口が多いシャン族だ。とはいえ、約7割を占めるアウン・サン・スー・チー氏らビルマ族に比べ、シャン族のそれは9%未満。ビルマ族支配を優先させたNLD政権については批判の声が少なくなく、少数民族武装組織のシャン州軍やワ州連合軍などはいまだ停戦協定に応じていない。

 シャン州東端の街タチレクと国境を接するのが、タイ最北端チェンライ県メーサイだ。ここには出稼ぎに来たシャン族の一部、タイヤイ族の人々が数多く暮らしている。新型コロナウイルスと国軍によるクーデターで国境が閉鎖され、帰国できなくなった。

 新型コロナ感染拡大までメーサイの飲食店で働いていたタイヤイ族のアップンさん(32)は、ビルマ族の友人も多い。国軍は無抵抗の市民にまで銃口を向けており、絶対に許すことができない。対抗するには辺境の各地に点在する少数民族武装組織の団結が欠かせないと考える。しかし一方で、NLDとの共闘についてはにわかには賛成し難いと本音も明かす。「他に手段がないので今は反国軍で一致協力するしかない」と語った。

 NLDに好感を持てない背景に、スー・チー氏らの後ろ向きな少数民族政策がある。スー・チー氏は「仲介者(である自分)が一方に立てば和解は実現できない」と繰り返すが、アップンさんは「虐げられてきた側が対等の立場で交渉に臨むことは不可能」と異論を示す。前政権の5年間で全土停戦を目指した「21世紀パンロン会議」はほとんど進展しなかった。国軍からの空爆を受け、NLDからの呼びかけに一転応じることにした東部カイン州の武装組織カレン民族同盟も、当初は国軍側にもスー・チー氏側にも立たないとの声明を出していた。

 タイ南部プラチュアップキーリーカン県のミャンマー国境シンコンでミャンマーコーヒー店を営むマイさん(52)は、母方の親族がカレン族の血を継ぐ。カレン族はカイン州に多いが、南部の山岳地帯にも居住区域がある。迫害を続ける国軍には怒りしかない。

 だが、多くのビルマ族の人々が3本指を立てて示す抵抗のポーズには違和感を拭えない。混乱が去ったとしても、再び訪れるのはビルマ族中心の政治だと思うからだ。「(スー・チー氏の父親の)アウンサン将軍が誓約したはずの連邦制が実現していないのが原因」とマイさんは訴える。当初の合意に反して自治権には多くの制約が課せられ、民族のアイデンティティーを維持することは困難だと指摘する。学校では自分たちの言葉を教える自由すらない。

 スー・チー氏引退を

 ミャンマー最南端タニンダーリ管区コータウン。ビルマ族が中心の街ではあるが、北隣のモン州を拠点とするモン族も少なからず暮らす。平地に暮らすモン族は同化が著しいとされるものの、民族意識を強く持つ人も少なくない。タイ側のラノーン県ムアンラノーンで漁業で生計を立てるウィさん(48)もそうした一人だ。

 父親の代からタイに居住するが、漁船での行き来は事実上自由だった。新型コロナで制限が始まり、クーデターで往来の禁止が確定的となった。漁民にふんしてタイに逃れるミャンマー国籍の人がいることから、タイの警察当局からも疑いの目を向けられる。「(2015年の)民政復帰で平和と安定が得られたはずなのにNLDは何をしていたんだ」と前政権への失望を隠さない。「ロヒンギャ問題で明らかなように、スー・チー氏では少数民族問題は解決できない」とスー・チー氏の政界引退をストレートに要求する。「引退を表明すれば国軍も軟化するのではないか」とも。

 ミャンマーから伝えられる報道では、無抵抗な市民が虐殺されるなど国軍対市民の構図が鮮明となっている。ここに市民側に立つことを決めた少数民族武装組織が出始めたことで、新たな展開も見せている。だが、少数民族にとってNLDとの和解は必ずしも一筋縄にはいかないようだ。後手に回してきたツケが浮き彫りとなっている。(在バンコクジャーナリスト・小堀晋一)

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