占領期から続く従属化根性
従来、研究所流出と、新型コロナ・ウイルスの人工説を唱えてきた筑波大学准教授の掛谷英紀氏が、論説「武漢研究所起源説はもう陰謀論ではない」(『正論』7月号)で丁寧に、この論点について解説をしている。それを読むかぎり、中国側にはこの問題についての情報開示を行う国際的な責任がある。そして、それを求めるには、世界の科学者や政治、国際世論の一段の力が必要だろう。
だが、掛谷氏が指摘しているように、そもそも科学者たちにはこのコロナ禍が中国流出や人工説を明らかにしようという動機付けが乏しい。わが身大事ともめごとを回避しているかのようだ。日本の政治状況をみても、一部の政治家たちは「中国共産党万歳」と100周年のエールこそ送るのに熱心な人が目立つだけで、武漢研究所問題への追及は低調だ。すっかりいまの日本政治の大半は、中国共産党の情報隠蔽(いんぺい)の協力者に成り果てている。
情報の隠蔽は、言論弾圧と重なる問題でもある。中国共産党は100周年の節目で、いままで以上に香港への言論弾圧を強めている。香港国家安全維持法(国安法)違反罪や資産凍結などで廃刊に追い込まれた「蘋果日報(ひんかにっぽう、アップルデイリー)」はその典型例だろう。
民主的で国際的な視野に立った同紙の終焉は、まさに香港の言論の自由の終わりに等しい。だが、香港での人権弾圧だけではなく、新疆ウイグル自治区でのジェノサイドに関する非難決議も国会では見送られた。情けないかぎりである。自分たちがいかに民主主義的な価値、自由な体制の恩恵をうけていることを忘れ、中国の経済的な恩恵、個人的な政治的・人的つながりに配慮した結果なのだろう。まさに唾棄すべき日本の政治状況である。その態度は、占領期から続く従属化根性ともいえるものだ。この点については近著『脱GHQ史観の経済学』(PHP新書)の中で、米国、中国、韓国との関係から解説したので参照されたい。
台湾などへの独自のワクチン外交は、米国と連携しての中国のワクチンナショナリズムへの対抗手段として成果があった。このような有効な動きがあることも忘れてはならない。ただし冒頭に戻れば、ワクチン接種が進む中で、日本はさらに積極的な経済対策が求められる。国内経済をしっかり盛り上げないでは、中国に依存してカネで魂を売るレベルに国民全体が堕してしまうだろう。中国共産党100年を契機に、いまこそ国内外の“中国共産党リスク”を真剣に考えるべきだ。
【田中秀臣の超経済学】は経済学者・田中秀臣氏が経済の話題を面白く、分かりやすく伝える連載です。アーカイブはこちら