海外情勢

コロナ禍の五輪開催、海外識者も賛否両論

 インドオリンピック委員会のナリンデル・バトラ会長と米パシフィック大・ジュールズ・ボイコフ教授(政治学)がそれぞれ、東京五輪開催について、産経新聞のインタビューに応じた。内容は以下の通り。

 インドオリンピック委員会 ナリンデル・バトラ会長「人は前進できるというメッセージになる」

 東京五輪は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)という困難な状況下での開催となるが、延期や中止すべきだったとは思っていない。今、五輪を開催することで、日本は「人は困難に直面しても前進できる」という重要なメッセージを発信できる。

 日本の感染状況も楽観できないのかもしれないが、無観客での開催など厳格な措置が取られると聞いた。適切な対策を講じれば、世界最大のスポーツイベントを成功させることができるだろう。

 当初は選手の派遣には不安もあった。(インド国内の感染深刻化のため)選手団は隔離などの厳しい措置に従わなければならない国のリストに入った。協会内では「日本で差別的な扱いを受けるのではないか」という議論もあった。しかし日本側は、私たちが差別的な扱いを受けることなく、全選手が大会への準備をする上で重要な施設を利用できると保証してくれた。平等に扱われるのであれば、何の不安もない。

 同時に私たちは感染予防策を徹底させるため、専門スタッフを任命した。選手やスタッフ間で情報共有を素早くできる仕組みも作り、パンデミック下の大会に安心して挑める態勢を整えた。

 インド選手団の過去最多のメダル獲得は2012年ロンドン五輪時だった。選手団には東京五輪で過去最多のメダル獲得と、感染のない安全な帰国を期待しており、両立可能な目標だと考えている。私は選手団126人全員の活躍を望んでいる。日本のみなさんもぜひ注目してほしい。

 米パシフィック大・ジュールズ・ボイコフ教授(政治学)「五輪運営改善に向けた議論活性化」

 新型コロナウイルスの感染力が強いデルタ株が拡大し、ワクチン接種完了者の割合も低い日本で、東京五輪・パラリンピックを開催するのはアスリートの健康を危険にさらすギャンブルだ。

 私自身も、五輪出場は叶わなかったが、かつてサッカーで米国代表になったアスリートだ。もし私が今大会の代表選手なら絶対に出場したいと願うだろう。

 しかし、大会開催の是非は医学上、公衆衛生上の見地から判断されるべきものだ。結局のところ新型コロナ感染症の心身への長期的な影響は分かっておらず、リスクを解消できない。

 万一、大会期間中に感染が拡大するようなことがあれば、今大会を人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証としたいという菅首相の目標も達成されない。

 五輪・パラは絶対に開催しなければいけないイベントではなく、今からでも中止すべきだと私は思う。

 中止する権限を持つ国際オリンピック委員会(IOC)やバッハ会長が開催にこだわるのは、明らかに金銭的な理由だ。IOCは収入の73%をテレビ局からの放映権料、18%を大手スポンサーに依存している。

 無観客での開催でチケットの売り上げ8億ドル(約884億円)を失っても気にしていないのは、損失を補(ほ)填(てん)するのは日本側で、IOCの懐は痛まないからだ。

 今大会の開催意義をあえて挙げるとすれば、こうした五輪運営の実態が世間に知られ、改善に向けた議論が活性化することだろう。

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