真山仁の穿った眼

東京五輪開幕…「撤退できる」トヨタ 「突き進むしかない」政府

真山仁
真山仁

自発的に行動を律するという選択

 そして、最後の引き金となったのが、五輪開会式で楽曲制作の一部を担当していた人物の過去の「障害のある同級生へのいじめ」発覚だったに違いない。弱者に対するいじめを嬉々として告白した人物を、開会式の楽曲担当にしただけではなく、発覚してもそのまま曲を使おうとしているような大会をサポートしたというイメージなんて、持たれたくない。

 多様性やユニバーサル精神を大切にすることは、今や企業にとって「至極当然」な時代だ。そんな国際社会の常識感覚を持てていないような大会に関わってはいけない。

 だから、誰かに指摘されるのではなく、自発的に行動を律するという選択をしたのだろう。

 日本の自動車産業は、世界市場において、常に神経質なまでに評判やイメージを気にしてきた。時に言いがかりのような批判を受けても、全て穏便に対処し、誠意を尽くすことで、自社のブランドを守ってきたのだ。

 だからこそ、こうした英断が下せたのだろう。

 トヨタからしたら、「当たり前の判断」だったかも知れない。

 しかし、このところの日本では、「当たり前」なことが行われない状況が続いているだけに、トヨタの行為が輝いて見えたのだ。

 これで、世界で事業展開している日本企業が自粛モードに続くのではと思っていたら、パナソニックなど複数のスポンサー企業の社長も、開会式に列席しないと発表した。

 それに引き換え、国民の怒りも嘆きも無視し、「五輪開催は絶対!」と突き進む日本政府。どちらが、日本の真の姿なのか。

 考えることすら戦(おのの)いてしまう祭典が始まった。

昭和37年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科を卒業後、新聞記者とフリーライターを経て、企業買収の世界を描いた『ハゲタカ』で小説家デビュー。同シリーズのほか、日本を国家破綻から救うために壮大なミッションに取り組む政治家や官僚たちを描いた『オペレーションZ』、東日本大震災後に混乱する日本の政治を描いた『コラプティオ』や、最先端の再生医療につきまとう倫理問題を取り上げた『神域』、「震災三部作」の完結編となる『それでも、陽は昇る』など骨太の社会派小説を数多く発表している。初の本格的ノンフィクション『ロッキード』を上梓。最新作は、東南アジアの軍事政権下の国で「民主主義は、人を幸せにできるか」を問う長編小説『プリンス』。

【真山仁の穿った眼】はこれまで小説を通じて社会への提言を続けてきた真山仁さんが軽快な筆致でつづるコラムです。毎回さまざまな問題に斬り込み、今を生き抜くヒントを紹介します。アーカイブはこちらから。真山仁さんのオウンドメディア「真山メディア-EAGLE's ANGLE, BEE's ANGLE-」も随時更新中です。

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