海外情勢

アメリカとは何なのか? 「タイム」誌で知るその実情

 政府は政策の立案者ではない

 見事なバイデン大統領の政策哲学のサマリーである。筆者は”Economic Security  Project”の共同議長であり、”Roosevelt Institute”の顧問とされているが、民主党系シンク・タンクの重鎮のようである。われわれは、この記事によって多くのことを知ることができる。

 その第1は、実施されようとしているバイデン大統領の新しい経済政策は、取り巻きの人の思いつきや世の中に主張されている各種意見の集約ではなく、考え抜かれた極めて質の高い政策であるということである。近年のアメリカ経済の変化を観察し、この40年間の同国の政策を再点検し、変化後の米国経済の成長の為に望ましい経済政策を一定の原理に従って、具体化しようというものであることがわかる。

 その第2は、アメリカの政策が、わが国や世界の大部分の国とは異なり、政府によって立案されているわけではないということである。経済政策を含めアメリカの政策は、国内の多くの関係者によって、恐らく数多く存在する民間のシンク・タンクを中心に、検討され作成されている。この国の政府は知恵袋ではなく、権力を握った者がその主張する政策を実施するための組織に過ぎないのではないかということになる。

 この第2の点は、われわれにとって大変重要なことを示唆している。

 その一つは、政府が政策立案当局でないということであれば、アメリカ政府を相手に政策論争をしてもあまり意味がないということになる。同国の政策に働きかける場合、その政策を動かしている民間のシンク・タンク、専門の学者など、政府以外の人々を相手にしなければならないのではないだろうかということである。

 その二は、わが国の行政の仕組みについて、アメリカを手本にするのは慎重であるべきではないかということである。わが国をはじめ、世界の大部分の国にとって政府とは政策の実施機関であるが、それ以上に国の知恵袋であり、最も重要なシンク・タンクである。そういう世界の大部分の国にとって、政府は単なる政策の実施機関であるというアメリカをモデルに国の行政の仕組みを考えるとどういうことになるか、結果は明らかであるように思う。

 【久保田勇夫(くぼた・いさお)】 昭和17年生まれ。福岡県立修猷館高校、東京大法学部卒。オックスフォード大経済学修士。大蔵省(現財務省)に入省。国際金融局次長、関税局長、国土事務次官、都市基盤整備公団副総裁、ローン・スター・ジャパン・アクイジッションズ会長などを経て、平成18年6月に西日本シティ銀行頭取に就任。26年6月から令和3年6月まで会長。平成28年10月から西日本フィナンシャルホールディングズ会長。

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