田中秀臣の超経済学

「自民にお灸」再び? コロナ・ワクチンめぐる“印象報道”と菅政権

田中秀臣
田中秀臣

 「日本のワクチン接種が海外に比べて遅れてるのでダメだ」というワイドショーお好みの報道もあるが、これも慎重に見なければいけない。人口比ではイギリスは69%、フランスは65%、米国は58%が少なくとも1回は接種が終わっている。それに対して日本は45.7%(8日現在)である。

 だが、接種スピードは日本は猛烈に早く、その「遅れ」を急激に解消している。英オックスフォード大が運営している「Our World in Data」によると、日本の「人口100人当たりの1日のワクチン接種数」は1.47(8月8日時点、7日間平均)で世界トップクラスだった。人口が少ない国々を除くと、直近の8月のデータでは日本が接種ペース“世界最速”ということになる。

 むしろ米国などはワクチンの接種が伸び悩み、その原因である反ワクチン的な感情や若者対策が社会問題化している。フランスでもワクチン接種を一段と進めるためにワクチンパスポートの携帯を義務化することをめぐって反対のデモなどが起きている。日本も今後は米国やフランスのような問題が起きないとも限らない。しかし、少なくとも「日本のワクチン接種が海外に比べて遅れてるのでダメだ」というワイドショー的な紋切り型の印象を抱かない方が、日本の実態を知る上ではいいだろう。

「自民にお灸」が大炎上に?

 各種の報道によれば、ようやく菅政権は補正予算の策定を指示するという。総選挙の日程はいまのところ10月上旬が濃厚だ。補正予算はその後になると言われている。だが、経済的な停滞感の蔓延を防ぐためにも、パラリンピック終了後に臨時国会で補正予算を通すべきだ。その上で総選挙がいい。

 それができないならば、予備費約4兆円を利用して、低所得者層を対象とした1人当たり10万円の臨時給付金を行ってはどうか。住民税非課税世帯に属する人口は、2400万から2800万の幅に収まるだろう。最大でも約3兆円の予算だ。

 これは低所得層の生活支援政策なので、特に景気刺激が目的ではない。何に使われてもいい。生活必需品にかなり支出される(この部分は消費刺激にはなる)が、ローンの返済や将来の支出に備えて貯金してもかまわない政策になる。これは補正予算への「つなぎ」になるだろう。また補正予算については具体策の一部を前回の連載で書いたので参考にされたい。

 世論調査では、自民党支持層でも菅政権への支持率が低下傾向にあるという。おそらく民主党政権誕生前にみられた、ワイドショー的な煽りがふたたび加熱していることもあるだろう。あの当時は、「自民党にお灸をすえる」「一度は民主党にやらせよう」という無責任で無思考な流れがあった。今回は、ワイドショーなど報道は、新型コロナの感染拡大やワクチン接種などで、本論で紹介した「印象報道」を多く繰り広げている。それが政権へのダメージになるからだ。

 政権が弱体化すればするほど、大胆な政策は打てなくなる。だが、民主党政権誕生の時の教訓は、世論というかワイドショー民(ワイドショー的報道に判断を大きく左右される人たち)には、合理的な判断よりも目先の印象が重要になる、そして、その結果は、日本社会や経済にとって最悪なものになるということだった。

 「お灸」ではなく大炎上しないことを願うしかないが、政治は願うだけではダメだ。菅政権は世論の関心を大きく転換するような大胆な経済政策を行うべきだ。それしか現在の閉塞した状況を打開できない。

田中秀臣(たなか・ひでとみ)
田中秀臣(たなか・ひでとみ) 上武大ビジネス情報学部教授、経済学者
昭和36年生まれ。早稲田大大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。専門は日本経済思想史、日本経済論。主な著書に『経済論戦の読み方』(講談社現代新書)、『AKB48の経済学』(朝日新聞出版)など。近著に『脱GHQ史観の経済学』(PHP新書)。

【田中秀臣の超経済学】は経済学者・田中秀臣氏が経済の話題を面白く、分かりやすく伝える連載です。アーカイブはこちら

Recommend

Biz Plus

Ranking

アクセスランキング