エネルギー資源価格の高騰が止まらない。原油価格は1バレル80ドルを突破し、7年ぶりの高値水準で推移している。LNG(液化天然ガス)のスポット価格は、10月初旬に昨年比で10倍を超え、石炭も海外先物市場で年初の3倍近い値を記録した。その結果、全国のレギュラーガソリンの平均価格(1リットルあたり)は160円台に達した。さらに、電気料金も高騰が続き、今年1月の水準と比べると標準的な家庭で1000円以上も値上がりしている。
化石燃料を奪い合う矛盾
これらの高騰が今後、製造業や運輸、外食産業へも波及していくのは間違いない。メディアも一斉に、コロナ禍が少し落ち着いた一方で、生活や産業に新たな不安が襲うと報じている。
背景には複数の要因があるようだが、最大の理由は、「脱炭素社会への備え」だ。少しでも二酸化炭素の排出量を減らすために、主要国は利用するエネルギー資源を、石炭から天然ガスへ移行し始めた。特に中国の「爆買い」が顕著で、天然ガス価格の高騰を招いた。ヨーロッパでも、同様の現象が起きている。
さらに原油産出国は、脱炭素社会が進むなか、原油で稼げるうちにできるだけ稼ぎたいという心理が働き、需要の高まりを承知で産出量を増やさないため、高騰が止まらないのだ。
その結果、世界中で化石燃料の争奪戦が始まっている。
脱炭素社会に備えるために、化石燃料を奪い合う矛盾が起きるのはなぜか?
それは、世界の現状が、脱炭素社会への準備がまだ全く整っていないからだ。
資金力のある「大国」は、少しでも二酸化炭素の排出量の少ない天然ガスを手に入れておこうとする。煽りを受けて、これまで天然ガスを購入していた国が買えなくなってしまい、代わりに石油や石炭を求めたことで、全てが高騰するドミノ現象が起きているのだ。
世界中が高らかに脱炭素社会を標榜し、それに賛成する人々も増えている。
地球の温暖化や人口爆発に歯止めを掛け、地球の環境破壊を防ぐことは急務だし、地球の住人としては、義務とも言える。
しかし、その実現のためには、自分たちの生活が苦しくなるのも受け入れる必要があると、人々はどこまで理解しているだろうか――。以前から、私はその点を危惧していた。
いわゆる「地球にやさしい」行いは良いことだ。だが、良いことを貫くためには、地球に住む人間全員が、快適な暮らしを我慢したり、捨てたりする覚悟がいる。
「SDGs」(持続可能な開発目標)のバッジを胸につけても社会は変わらないし、エコバッグを利用するだけでは、脱炭素社会への備えができているとは言えない。