■10倍もの急騰に目をつけて転売する人も
短期間で韓国が尿素水不足を克服することは困難だろう。そのため、過去1カ月間で韓国国内の尿素水価格は10倍程度上昇しているようだ。韓国では価格の急騰に目をつけて尿素水を買い、ネット上で転売する個人も増えている。失業率などのデータが示す以上に厳しい雇用・所得環境さらには物価が上昇する中で、尿素水価格の高騰を利得獲得につなげたいと考える人は多いのかもしれない。
韓国が不足に陥っている基礎資材は尿素水だけではない。石炭不足を背景とする電力不足によって、中国ではマグネシウムやアルミの生産が減少し、韓国の輸入量が減少している。基礎資材の不足は、企業の生産活動や市民生活を混乱させる要因だ。尿素水不足を背景とする物流への懸念などは、徐々に社会の不満を増加させるだろう。
■基礎資材の安定調達の重要性を軽視してきた
欧州でも、韓国同様に効率性の高いクリーンディーゼル車の普及が重視されてきた。足元でEV車が普及し始めているものの、欧州の自動車市場でディーゼル車の重要性は依然として高い。しかし、欧州各国では尿素水の不足による物流や市民生活の混乱懸念は高まっていない。それは、欧州各国が安心して市民が日常生活を送れるよう、経済運営に必要なモノを安定して調達する体制を恒常的に見直し、強化してきたからだ。
逆に言えば、韓国はそれをしてこなかった。尿素水不足に直面した文政権は、外交ルートや大手財閥系企業のネットワークを使って、中国以外の国からの尿素水確保を急いでいる。しかし、世界経済全体でエネルギー資源などが逼迫する状況下、各国のメーカーが韓国の要請に迅速に応えることは困難だ。実際に不足が発生するまで、韓国は基礎資材などの安定調達の重要性を軽視してきたといえるだろう。
■「金を出せば自由にモノが買える」という発想の危うさ
その背景には、韓国の政府と企業が輸出競争力を高める効率を最重要視したことがある。韓国は半導体など利益率の高い分野での生産体制を強化する一方、採算が悪化したり製造技術力が十分ではなかったりするモノは輸入に頼る方針だった。結果として、尿素水のような汎用的な資材に関しては対中依存度が高まった。ある意味では、効率性を追求するあまり経済構造に一種の歪みが出た。
そうした方針の背景には、資金を出せば、常に、自由に、必要なだけのモノが買えるとの発想があっただろう。尿素水不足によって、その考え方が常に通用するとは限らないことがはっきりした。本来であれは、韓国は資材の不足が起きる前に特定の品目が、特定の国からの調達に依存しすぎていないかを検証し、問題が発生する以前に調整をする必要があったが、それができなかった。
天然ガスや原油、農産物などを輸入に頼るわが国は、韓国の教訓を他山の石として活かすべきだ。政府や企業は特定の国への輸入依存度が高止まりしていないかを入念に検証し、必要に応じて調達先の分散などの対策をとる必要がある。それが経済安全保障体制の強化に欠かせない。
真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)