オープンイノベーションの手引き

ステップ(2)社外連携の「悲劇」は回避できる 本当にあった経営会議のワンシーン

TOMORUBA
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 日本のイノベーション創出を促進しようと、経済産業省は、事業会社とスタートアップによる連携の手引きを取りまとめています。しかし、そのボリュームは膨大です。本連載は経産省の手引きをベースに、オープンイノベーション支援をおこなうeiicon company(エイコンカンパニー)代表の中村亜由子氏が、社外との事業提携を成功させるための各種ノウハウをわかりやすく解説するコラムです。業界の第一線に立ち、その課題と動向を熟知したプロがアドバイスします。

連携における失敗事例と乗り越え方 その1

「オープンイノベーションは手法だが、新規事業において、“正解”はないのだから、実践してみて初めてわかることが必ず出てくる」と前回述べた。ただ、オープンイノベーションは手法に過ぎず、やり方が分かっていれば回避できる事態があるのも事実である。そこで、2回にわたって「連携における失敗事例とその乗り越え方」について、いくつか整理する。

オープンイノベーションという言葉を独り歩きさせない

 まず、よくある失敗事例としてお伝えしたいのは、「オープンイノベーションという言葉の独り歩きによる悲劇」である。オープンイノベーションという言葉を決して独り歩きさせないこと。これが鉄則だ。

 下記は本当にあった経営会議のシーンである。

 経営会議にてオープンイノベーションで実践していく領域が定められ、その場では「オープンイノベーションで実践していくこと」が決定し、その場は終了した。

 「オープンイノベーション」は各人に様々に解釈されたまま時間が経過し、いつしか都合の良い言葉に変換され出す。

  • 「オープンイノベーション=イノベーション」
  • 「オープンイノベーション=新規事業」
  • 「オープンイノベーション=第三の事業の柱」etc

 1年後。「オープンイノベーションで実践していくこと」で片づけられた領域がふたたび経営会議でやり玉にあがる。

  • 「なぜ売上になっていないのか」
  • 「1年何をしていたのか」
  • 「会社のお金を使って何も形にできていないのか」etc

 冒頭で述べたとおり、オープンイノベーションはただの手段である。その手段を講じるのに、内容によっては時間がかかること・お金がかかることは当たり前だ。工数や予算自体が議論されていなかったわけではない(議論されていなかったらもっと大問題だ)。

 ただ、そもそもの問題は、それぞれ都合のよい解釈をして議論に臨んでいた点である。「オープンイノベーション」という言葉に過度な期待をした者もいれば、意味を取り違えたままの者もいる。その状態で走り出してしまった…ということに過ぎない。期待値を見誤ったままのものを実践した結果が、意図に沿うわけがない。

 「オープンイノベーション」という言葉はいずれ使われなくなると私は考える。手段として当たり前になり、定義が定着すればわざわざ「オープンイノベーションという手段を用いて」などと言う必要がなくなるからだ。

 今は、悲しいが、使われ方・定義が曖昧過ぎてまだその時ではない。だからこそ意識して「オープンイノベーション」という言葉を丁寧に扱う。

 例えば、「オープンイノベーション」という言葉を、経営会議や会社としての戦略に乗せる場合は「オープンイノベーションプロジェクト」と言い換え、つまりは「社外連携によって新たなイノベーションのタネを創出する取り組み」と定義するのはどうだろうか。プロジェクトだと捉えることができれば、中のストーリーが必要になることが万人に理解されやすくなり、全体が捉えやすく見えやすくなる。

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