溝田さん「提携前に最低限やっておくべきことは、コア技術の特許や商標をとっておくことです。契約上、技術やプロダクトが誰のものかを決めておかないとトラブルになります。特に、昨今増えているオープンイノベーションの現場では、大企業は『スタートアップを囲いたい』、スタートアップは『可能性があるかぎりいろんな企業との提携を模索しながらスケールしたい』と思っている。その思惑の落としどころを見つけ、互いにウィン・ウィンとなるような契約をしないと、オープンイノベーションを成立させるのは難しいです」
それでは、どのような企業と提携するとウィン・ウィンな関係性になるのでしょうか。白坂さんは見極めるときに、頭に入れておきたいことを教えてくれました。
白坂さん「親和性がある企業を見つけると、最初は大企業もスタートアップも『一緒にやりましょうか!』となりがちです。しかし、まずは技術を開発した際に、特許は共同でとるべきかという疑問は頭に入れておくべきです。また、共同で特許をとっていたメンバーが転職したらどうするかも考えないといけない。人の流動性で技術が流れ出る可能性は大いにありますからね。大手企業間の転職でも、たびたび情報漏洩に関する問題がニュースに出ていますよね。協業する場合は一生その会社に“添い遂げる”か、それとも他社とも協業したいという“浮気心”があるのかを見極めて、特許戦略を構築することが求められるでしょう」
技術の流出は他企業との提携だけではありません。特にスタートアップでは、特許や商標に対する正しい知識がないために、特許がとれなくなるトラブルが発生しています。
溝田さん「スタートアップで多発しているのは、SNSにアイデアを公開してしまって特許出願ができなくなる事態です。大企業や公務員は規則でSNSが禁止されていることが多いですが、知名度や集客力が低いスタートアップはSNSを活用することがよくあります。しかし、特許をとらずにSNSでアイデアを公開すると特許申請ができなくなります。なぜなら、特許法第29条第1項において、インターネットでアイデアが公開されていると“新規性”がなくなってしまうため、特許を受けることができないと記されているからです」
スタートアップが「知財戦略」を学ぶためにできること
ここまで知財戦略の重要性を語ってくださった白坂さんと溝田さん。イベント後半では、スタートアップの経営者がどのように知財戦略を学んでいくべきかといった内容が語られました。
溝田さん「実体験として学んでいくのが一番いいと思います。どうしても本だとわかりにくく、勉強がはかどらない。なので、証券の方の打ち合わせや監査法人の打ち合わせも経営者自身が出ることが大切です。その過程で、少しずつ学ぶのが近道ではないのでしょうか」
一方で、知財戦略を構築する上で、なりふり構わず特許や商標を取得すべきでないと、溝田さん。事業フェーズに応じて、優先順位を柔軟に変えることが求められると語ります。
溝田さん「売上が出ていない、資金調達をしていない中で特許を取得しても、特許貧乏になるだけ。資金がショートしては事業が継続できなくなります。バイオ関連など技術力で勝負をしないといけない分野では、売上に関わらず特許取得をオススメしています」
ただ経営者は時間が限られており、実体験として学ぶ時間を確保しづらいというのも事実。溝田さんと白坂さんは、専門家に頼る重要性も強調しました。今ではスタートアップ向けに比較的安価な値段で相談に乗ってくれる方も増えている他、東京21cクラブでも会員さんと会員の友人までを対象に、白坂さんに無料で相談ができる機会(東京21cクラブ無料相談会)を定期的に設けています。
また、白坂さんが提供するAI Samuraiでは簡単に特許取得の可能性(発明の新規性・進歩性)を評価。大企業の弁理士に多く活用されているAI Samuraiですが、個人でも簡単に特許関連業務が行えるようなプラットフォーム化を目指していると白坂さんは語ります。
白坂さん「AI SamuraiはAIが自動で特許調査を行い、特許取得の可能性を評価するWebサービスです。特許庁が公開する特許公開公報と特許公報をデータベース化し、類似する先行技術の事例から出願予定の特許の登録が成立する可能性をランク別に評価。世界一速い検索、世界一簡単なAI特許評価システムを目指しています。このAI Samuraiを活用すれば、特許調査の時間を大幅に減らし、研究や開発に時間を割くことができるようになります」
新しい武器が生まれたら、知財戦略の考え方も大きく変わってくる。AI Samuraiもそんな存在になっていきたい-最後に白坂さんはそう語り、イベントは幕を閉じました。
【CONNECT in 丸の内】では、三菱地所が運営する国内外のスタートアップとそのサポーター約600名が集う起業家支援コミュニティ「東京21cクラブ」による、イノベーション創出支援を目的とした活動の一部をご紹介します! アーカイブはこちら