なお、この手のトークは有名なフレーズの丸パクリということもときにはある。約10年前に、それまでのDVDレコーダーにかわり、ブルーレイレコーダーがブレークしたが、そのきっかけはSONYの矢沢永吉によるCMだという。「これ、ハイビジョンじゃないの?もったいない」というフレーズは、家電量販店の店員たちがそのまま売り場で使い、SONY以外の商品も含め、ブルーレイレコーダーがブレークするキッカケとなった。
私も、会社員時代は「営業マンは歯が命というCMがありましたが、じゃらんnetはプランが命なんです」「この特集に載っていないと、企業として存在しないのと一緒ですよ」「(人事担当者として学生に)会社が君を選ぶんじゃない。君が会社を選ぶんだ」「今、僕はウチの会社で働いていて最高に楽しいんだけど、来年、君と一緒に働けたらもっと楽しいと思うんだ」「僕はデキる社会人じゃなくて、面白い社会人になりたかったんだ。そういう生き方ってかっこよくない?」などなど、今、書いているだけで顔から火がふき出しそうなくらいの、恥ずかしい殺し文句を使って仕事をしていた。
もっとも、ここまで書いておきながら、ちゃぶ台をひっくり返すが、殺し文句だけで勝てるほど、世の中は甘くない。信頼を勝ち得るためには、提案内容や、仕事ぶりが問われるのは言うまでもない。まるでマンションの広告に踊るポエムのような「天地創造」「叡智の森」「空と風の交わる天空の城」というような、意味のないフレーズを考えても意味がない。取引先も社内の上司や同僚も、あなたには普通に働いてもらいたいのであって、別にコピーライターの仕事を期待しているわけではないのだ。
【働き方ラボ】は働き方評論家の常見陽平さんが「仕事・キャリア」をテーマに、上昇志向のビジネスパーソンが今の時代を生き抜くために必要な知識やテクニックを紹介する連載コラムです。更新は原則隔週木曜日。アーカイブはこちら