5時から作家塾

ネスレが欧州で抹茶キットカット発売 戦略から見て取れる「日本らしさ」

 欧州版はどうせ抹茶味などと騒いでおいて、雰囲気と色だけ抹茶なんでしょ? と思っていたが、ほぼ日本版と同じ程度に感じる抹茶風味がある。子どもたちが日本版のほうが抹茶の味が濃く、欧州版のほうがチョコレートの味がすると言ったが、あちこち調べてみたら確かにウエハースに挟まっているチョコレートの色が日本版はうぐいす色、欧州版は茶色だった。100グラム当たりのカロリーは、日本版は575kcal、欧州版が536kcalと、欧州版のほうが若干低い。原材料もほぼ同じ。うーん。

 味の比較はしまらない結果になってしまったが、やっぱり一番分かりやすい違いは、そのパッケージ。日本人なら見ただけで香りが鼻を抜けそうな濃いお抹茶の写真の日本のパッケージに対し、オランダのパッケージは淡い色合いで抹茶風味のアピール弱め。大仏、お寺、さくら、鯉など仏教や自然に関係するいかにも「日本風」なイラストがアジアンテイストの地模様になっており、CM動画からも見て取れるように「Have a break」という同製品のキャッチコピーを、抹茶が持つ心癒される「禅」のイメージが後押しする形になっているのだろうなと想像できた。

 抹茶キットカットに盛られていた「売れる日本」のイメージ

 推測するしかない部分もあるが、抹茶キットカットが欧州での発売に押し出された背景には、新フレーバーへの要望が多かったという他に「一部の経験者の間で根強い支持があった」こと、「既存のものと全く違う」ことも大きかったようだ。そして休憩のおともという商品の性格を押し上げるための、神秘的、癒し、静謐、といった「日本のイメージ」を盛ってある印象が強い。

 最後に一点、このたびの抹茶キットカット発売に関するオランダの記事を徘徊していてびっくりしたのが、あちこちで緑茶の健康効果が強調され、緑茶を日常的に飲む習慣のある私たち日本人が長寿で若々しいことに触れていたこと。日本人で健康になろうとして抹茶キットカットを食べる人は多くないように思うが、彼らにとって神秘の国・日本ではお菓子にすら健康効果が宿るらしい。

 神秘的、美しい自然、癒される静謐さ、全く異なる文化、通好み、そしてなにより健康で若い。

 このあたりの「売れる日本のイメージ」を盛って今のところ好評販売中の抹茶キットカットは、これから定番として長年愛されるのか、それともみなさん一度食べたら気が済んでしまうのか。

 日本人として遠い異国での故郷のお菓子の成功を祈りつつ、売れ行きを見守りたい。(ステレンフェルト幸子/5時から作家塾(R)

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5時から作家塾(R) 編集ディレクター&ライター集団
1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。

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