筆者は意志力に限度があるという説に概ね賛成です。労力が必要な仕事は午前中にやり、疲れているときに労力を使わないような仕事をするようにしてから、心理的な負担が減るのを体感しています。しかし、エネルギーを上手く使うのと同じくらい、意欲を高める工夫も大切だと考えています。
批判より意欲を向上 先延ばしに効く声がけとは
やらなければならないこと、やったほうがいいことをつい先延ばしにしてしまったとき「自分は意志が弱い」「だらしない人間だ」と自責の念を持つ人は多いと思います。しかし、このようなセルフコミュニケーションは改善には繋がりにくいものです。発奮できればよいのですが、自己肯定感が下がったり「どうせ~だから」という思考に陥りやすくなったりするリスクのほうが心配です。
仕事や課題解決を先延ばしにしがちな部下に対しても、責めるような言葉での指導はしないほうがよいでしょう。そういった言葉で不快感を与えて行動を改善してもらうというやり方では、常に注意を繰り返さなければなりません。成果を得るための労力もかかりますし、よい人間関係を維持するという面からもお勧めしません。
そこで試してほしいのが、意欲を高め、行動へのハードルを下げるキーワードを使った声がけです。
先延ばしを改善する声がけ5つのキーワードとは
意欲的に取り組めることであれば、日常生活で意志力を消耗している状態でも、私たちは必要な行動をすることができます。部下を批判するよりも、以下のキーワードを意識したコミュニケーションを心がけましょう。
1.「楽しさ」
先延ばしにしていることの中に楽しさを見つけられるような声がけをしておきましょう。
- 例)この部分は楽しい、こういうやり方をすれば楽しい、これができるようになれば楽しいなど
2.「大義」
自分のためには頑張れなくても、誰かのためになら頑張れるというのはよくあることです。先延ばししていることにも大義があれば、それについて言及しましょう。
- 例)人のためになる部分、会社に貢献できる部分、社会がよくなる部分など
3.「成長」
それをすることによって得られる成長について言及しましょう。
- 例)挑戦による成長、経験による成長、達成することによる成長など
4.「スモールステップ」
何から手をつけるのかが具体的で、それが簡単であるほど、行動に移す心理的ハードルを下げることができます。「まずはこれだけやってみよう」と思えるような声掛けをしましょう。
- 例)まずは調査を、まずはTODOリスト作りを、まずはチームを…など
5.「いつやるか」
いつやろうかという迷いや決断でもエネルギーは消耗されてしまいます。いつ取り掛かるのか、また中間報告はいつするかということを決めてしまい、淡々と取り組めるようにしましょう。
- 例)いつ取り掛かるのか、中間報告はいつするか、締切はいつなのかなど
これらの声がけは、部下の指導だけでなく、自分の心の中で行うセルフコミュニケーションにも取り入れてみてください。これまでよりも心理的な負担が軽くなるのを体感できるはずです。
【最強のコミュニケーション術】は、コミュニケーション研究家の藤田尚弓さんが、様々なコミュニケーションの場面をテーマに、ビジネスシーンですぐに役立つ行動パターンや言い回しを心理学の理論も参考にしながらご紹介する連載コラムです。更新は原則毎月第1火曜日。アーカイブはこちら