今回は、慶應大学医学部を経て医師になりながらも3カ月で辞め、いまでは起業家となっている山口太朗さん(株式会社Salt代表取締役)についてお話させてください。
みなさんは、もし医者という免許を持っていたとして、それを捨ててまでリスクが高いと思われる起業に挑戦する自分の姿が想像つきますでしょうか?
なかなかイメージが湧かないかもしれませんね。少なくとも私は最初そう思いました。
しかし、お話を伺うにつれ山口さんの選択は必然性やチャンスがあったのだと理解できるようになっていきました。
それではインタビューをご覧ください。
iPS細胞の研究で鍛えられた世に問う力
山口さんは慶應大学時代にiPS細胞の分裂を研究していたそうです。
「昔から人類の役に立てる仕事がしたいと思っていて、中高生の時にそれは医師になることでした。ですから大学は自ずと医学部に入りました。その気持ちは変わりませんでしたから、臨床医師になるよりも自分が心を砕いたのが研究でした」
なるほど。それでiPS細胞というテーマ選択もされたのですね。どんなことを感じましたか?
「まず研究は面白いなと。研究とはひとことで言うと“証明”です。そしてより大きいものを証明した人がノーベル賞を受賞します」
すごくわかりやすいですね!もう少し教えてください。
「例えば、昨年本庶佑先生がノーベル賞を受賞しました。がんの治療薬を開発した功績だからです。人類を脅かしているのががんというのは誰もがわかると思いますが、従来の治療薬と大きく異なるアプローチが評価されました」
おお、思った以上にビジネスに近い雰囲気がします。
「はい。研究は面白くて、新規性と、有用性、そして面白さや新たな視点の3つで評価されると思っています。本庶先生で置き換えると、“いままでにない治療薬であること。そして多くの人を救うテーマであること。学問的にはがんと免疫をミックスするという新たな視点である”と、全て押さえられているのですよね」
かなりシステマティックなのですね。
「はい、研究は非常にロジックが明確なのです。ですから、研究の進め方もロジカルです。例えば研究テーマを決めるとどうすると思いますか?」
想像つきませんが、ビジネスでいうと競合調査から入りますが。
「そういうことです。まずその領域の既存研究を調べます。研究者のリストアップを行うことで誰がどんな研究をしているのか、そして、何がわかっていて何がわかっていないのかを調べるのです」
なるほど!意味がわかります。ビジネスではその次に自社のSWOT(強み・弱み・事業機会・脅威などの分析手法)を行い事業検討をすることが多いですが研究ではどうなのですか?
「同じです。自分が属する研究室の強みを踏まえて研究テーマを決めるのです。少なくとも私はそうでした。病院をもっているのか、試薬を人に投与できるのか、などです。もちろん研究室内で独自の研究の共有もあるのでそこからも検討します」
山口さんがなぜビジネスに移ったのかわかりました。