書評

『ともがら(朋輩)』中原文夫・著 なれなれしい知人にいらだち

 芥川賞候補作家の、短歌をちりばめた野心作である。

 大手電機メーカーに長く勤め、いまは取締役顧問として不足のない生活をしている主人公は病院で、学生時代の下宿仲間に数十年ぶりに会う。彼に好意を持ったことはなかったが、彼の方は妙に明るく、なれなれしく接してくる。定職を持たず、アルバイトのような仕事をしながら、ぜんそくの妻と知的障害のある息子を抱えて、1人で家庭を支えているらしい。主人公の留守中、会社に訪ねてきて、漢方薬を置いていったりする。彼の接近にいらだち、振り回されていく熟年の心の葛藤を描いた。(作品社、1100円+税)

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