早期退職が同時並行でくる
社員や労働組合の反発を恐れて二の足を踏んでいる経営者も少なくないが、経団連は来年の春闘で正式なテーマとして労働組合と交渉することになる。その結果、若手社員を含めた「ジョブ型雇用」が浸透することになるかもしれない。なぜなら日本型雇用とジョブ型は前述したように相いれない仕組みであり、いずれ日本型雇用システムが淘汰されていく可能性もある。
そして同時並行的に発生するのは、もう一つの柱である終身雇用の機能不全による早期離職の促進である。経団連の中西会長は昨年5月こう発言していた。
「終身雇用を前提に企業運営、事業活動を考えることには限界がきている。外部環境の変化に伴い、就職した時点と同じ事業がずっと継続するとは考えにくい。働き手がこれまで従事していた仕事がなくなるという現実に直面している。そこで、経営層も従業員も、職種転換に取り組み、社内外での活躍の場を模索して就労の継続に努めている。利益が上がらない事業で無理に雇用維持することは、従業員にとっても不幸であり、早く踏ん切りをつけて、今とは違うビジネスに挑戦することが重要である」(2019年5月7日定例記者会見、経団連発表)。
こうした経団連会長としての一連の発言が大企業のリストラを後押ししている。東京商工リサーチの調査によると、2019年1~11月に希望退職や早期退職者を募集した上場企業は延べ36社で対象人員は1万1351人。2018年の4126人の約3倍増となり、6年ぶりに1万人を超えた。しかもその中にはアステラス製薬、中外製薬、カシオ計算機、キリンホールディングスなど業績好調にもかかわらず、リストラに踏み切る企業も目立つ。
さらに2019年11月28日には、これまで希望退職募集を実施したことのない味の素も50歳以上の管理職を対象に希望退職募集を発表している。今年は日本的雇用システムが大きく転換する年になるかもしれない。
溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。
(人事ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com)