陣中見舞いに「領収書は要りません」 IRブローカー、政界に浸食
「『500』社は日本に来たがっている。秋元先生に会わせるだけで報酬がもらえる」。紺野は男性に自慢げに語っていた。顧問報酬は1千数百万円らしいと伝え聞いた。後発だった「500」社がカネに物を言わせて政治家を頼り、橋渡し役として紺野を雇った構図が浮かぶ。
「500」社は29年8月に那覇市でシンポジウムを開いてIR参入を表明したが、すぐに留寿都村に足場を移した。それも30年秋頃には暗礁に乗り上げた。
そこで紺野は秋元と一緒に広東省深センの本社とマカオのカジノ視察へ招待した衆院議員、白須賀貴樹(44)に地盤の千葉市長、熊谷俊人(41)を紹介してもらった。31年1月に2度面会したが、話は具体化しなかった。
企業と政治家をつなぐ役割を果たす紺野のことを、ある捜査関係者は「ブローカー」と呼んだ。
東京地検特捜部は30年夏、子供の医大合格や飲食接待を賄賂とする文部科学省を舞台にした汚職事件で文科官僚2人を起訴した。この事件で贈賄側だったのが「霞が関ブローカー」と呼ばれるコンサルティング業の男だった。接待相手は複数省庁の官僚のほか、元閣僚ら国会議員も含め10人前後に上るとみられた。
今回の事件でも霞が関や永田町でうごめくブローカーを起点に、口利きを通じた政治家と業者の癒着構造が明らかにされつつある。
特捜部は22年に発覚した大阪地検特捜部の証拠改竄(かいざん)事件などの不祥事の影響で、政界を含め大型事件の摘発から遠ざかり、現職国会議員を逮捕するのは約10年ぶりとなった。収賄容疑では実に17年ぶりだ。
ある特捜部OBは今回の事件をこう評価する。「特捜部が事件を摘発してこなかったから政界も官界もたがが緩み、業者に付け入られる隙を与えているのだろう。特捜部は常に恐れられる存在である必要がある」(呼称・敬称略)
この企画は市岡豊大、山本浩輔、宮野佳幸、吉原実が担当しました。