ブランドウォッチング

地域産品のサクセスストーリーを描く「今治タオル」 価格競争から一線を画す

秋月涼佑
秋月涼佑

 「ブランドは利益だ」と言うと、浮利を追うことを嫌う日本のビジネス社会ですから、なんだかちょっと嫌らしく聞こえるかもしれませんが、ブランディング戦略を考える上で絶対に外せない視点です。

 この考え方を教科書的に説明すれば、まったく同じ見かけ品質のAという製品があって、ブランド無しならば100円だけれど、ブランドありだと200円で売れる。とすれば、差額の100円が利益になり、その利益こそがブランドの経済的価値だと言うことになります。 

 でも現実のビジネス活動では、まったく同じ品質のAという製品を倍で売るのはただの”あこぎ”に過ぎませんから、200円で売られるものには100円の製品より優れた品質になる工夫やデザインの付加価値の費用70円が加えられ差額の30円を利益とすることになります。

 同じビジネスをやるならば、できれば並の製品より素敵なこだわりの製品を作って、利益もしっかり出せるほうが間違いなくやりがいがありますよね。ブランディングの取り組みをオススメする由縁です。しかも、ノーブランド商品群は熾(し)烈な価格競争の消耗戦になりやすいわけですから、そこを抜け出すためにも必要な戦略と言えます。

 ただし、このバラ色の方程式が成立するためにはひとつ絶対的な必要条件があります。そう、そんなブランド品の付加価値の真価を理解共鳴して、一般品の倍200円を払ってくれる顧客が存在してくれる必要があるのです。もしくは現時点でそんな顧客が存在しないのならば、啓蒙して増やしていかなければなりません。

 海外製品との競争圧力にさらされるタオル市場

 そんなブランディング戦略の成り立ち・構造を、とても分かりやすく見てとることができるのが「今治タオル」ブランディングの取り組みです。

 何せ製品はタオルです。家でも、外出中でも、誰でもがどこでも使うタオル。コンビニエンスストアでも手軽に数枚セットで購入できますし、安いものを探せば限りなくお手頃なものが見つかります。身近な製品だけに普及品の価格競争は中国製、ベトナム製をはじめとする輸入品もあり熾烈極まります。普通に言えば、日本企業が典型的に手を引かざるを得ない領域と言えるはずです。でも今治タオルは諦めなかった。

 今治タオル工業組合(当時、四国タオル工業組合)がクリエイティブディレクターの佐藤可士和氏を総合プロデューサーに起用し、国のJAPANブランド育成支援事業の補助事業として「今治タオルプロジェクト」を始めたのは2006年です。日本での地域産品ブランディングの先行事例となっただけでなく、すごいなと思うのは約15年たった今も実質をともなって続いていることです。もちろんこの期間も1年たりと、競争圧力が和らいだ時期はなかったはずです。それでも営々と「今治タオル」としてのブランディングを続けてきたことに価値があると思います。

 「今治タオル」の物語を長期戦で伝える

 「今治タオル」を示すロゴマークの開発はあまりにも有名です。

 「愛媛県今治市は、120年もの間、タオル産業が受け継がれてきたタオルの聖地。糸を撚る工場、糸を染める工場、タオルを織る工場など、200近くもの工場が集まる一大産地です」と解説するブランドサイトや、公式オンラインショップなど活動は多岐にわたります。

 何より、製品の品質の高さ、なぜその品質が生まれるのか、ブランドの物語が「温暖な気候と豊かな水源」など今治という土地がもつ必然性をもって語られます。

 一つ一つは地道な取り組みかもしれませんが、一貫した発信で当時はよっぽどの業界通の人しか知らなかった、「今治タオル」というものを今では多くの人が知っているという状態にまで至っているのです。まだまだ実際に購入したり、使ってみたりした経験がない人も多いと思われますが、瞬間風速的な流行を追う製品ではないわけですから長期戦で取り組むのが妥当であるに違いありません。

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