社会・その他

プライバシーは近代の産物 リアリティー番組に見る「変化と危惧」

 「生まれで自己が確定している前近代と違い、流動化した近代社会で暮らすためにプライバシーが必要とされた。20世紀のプライバシーは個人の内面にあったが、21世紀に入るころから個人情報へと比重が移ってきた。社会のなかで自分を維持する機能としては同じですが、その所在が変わってきているのです。プライバシーのアウトソーシングともいえるでしょうか」

 変革の芽、摘まれる恐れ

 --個人情報の管理は小説「1984」でビッグブラザーに監視される未来社会を想像してしまいます

 「民主国家の未来は『1984』や、パノプティコン(中央監視塔から全独房を見渡せる刑務所モデル)のようにはならないでしょう。むしろ多様な企業や機関が個別に情報を持ち、いたるところにある監視カメラが個人情報を別々に蓄積している。全体を統括するものはない分散的な監視というべきでしょうか」

 「ただ監視カメラについていえば、気持ち悪いと思っていたことも忘れて急速に慣れてきている。監視カメラではなく防犯カメラ、見張りではなく見守りというふうに、意識の持ち方が変わってきていると思いませんか。見られない自由より見られている安心感が強くなり、映像が適切に管理されていればいいと感じるようになっている」

 --誰もが日常をカメラに撮られ当たり前に受け入れているなかで、リアリティー番組があるのですね。肯定否定、ポスト近代のプライバシーをどうみますか

 「近代社会で必須だった直接的なパフォーマンスの比重が軽くなれば、体裁を気にすることなくふるまったり、人との関係も自由になったりするなどいい面はあるでしょう。規格を外すと変にみられるという意識が減り服装や髪形など、最近は結構自由になっているのもその表れだと思っています」

 「ただ自己を規定する情報が登録された社会は、かなり悲観的な側面も持ち合わせています。近代とはプライバシー、つまり管理されない部分で創造やイノベーションのエネルギーを蓄え発展してきた部分があるのですが、それが消えてしまいかねないのです」

 --どういうことですか

 「具体例で言いましょう。同性愛の問題です。アメリカの一部の州では同性愛が法律で禁じられ、同性愛行為で逮捕される時代があった。ところが同性愛を禁じる法こそ憲法違反だとされ法律が変えられた。これが可能だったのはプライバシーとして外部が立ち入れない部分を持つ、近代社会だったからなのです」

 「ところがデータベースにプライバシーが移ったポスト近代社会では、あらゆる志向が情報で管理され、既成の法や規範に反する運動を起こす前に変革の芽が摘まれてしまう恐れがある。いまの価値観が絶対的なものとなり、社会を変えたり、新しいものをつくったりしていくエネルギーが失われかねない。そういう社会で果たして個人の尊厳が保てるのか。その部分で非常に危惧しています」

 【プロフィル】さかもと・としお 昭和33年9月、大阪府生まれ。大阪大人間科学部卒、同大学院人間科学研究科単位取得退学。博士。専攻は理論社会学。情報化の進展により変容する社会や個人をテーマに研究している。著書に「ポスト・プライバシー」「新自殺論」など。

 【ニュースを疑え】「教科書を信じない」「自分の頭で考える」。ノーベル賞受賞者はそう語ります。ではニュースから真実を見極めるにはどうすればいいか。「疑い」をキーワードに各界の論客に時事問題を独自の視点で斬ってもらい、考えるヒントを探る企画です。

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