高論卓説

コロナ禍で身近になった「ジョブ型雇用」 年功型の経営者はどこまで変われるか

 賃金コスト削減、企業再編促す下地

 「ジョブ型雇用」が身近になっている。コロナ禍に伴う在宅勤務の普及により、さらに広がっていきそうだ。もっとも、成果主義であるジョブ型雇用は今後、企業業績の悪化に伴う総賃金コストの削減に利用される一方、M&A(企業の合併・買収)後における個人への評価や働き方にも影響を与えていく。

 ジョブ型雇用は、欧米企業で一般的な職務給と同じ。職に賃金がついてくるシステムだ。例えば、日本市場の営業責任者ならば、基本給が20万ドル(約2100万円)、成果給が30万ドルといった形になる。

 職務内容は「ジョブディスクリプション(JD、職務記述書)」により、事前に細かく明示されて契約する。JD以外の仕事はやらない。東アジアを統括する営業責任者など、ジョブグレード(職位)が上位となるほど基本給が上がり、成果部分の割合は高くなる。部門をまたぐ異動はなく、職務のプロフェッショナルを目指す。また、成果を上げられなければ、欧米企業では“クビ”もある。

 これに対し日本企業は、4月に一括採用され、年功型の職能給である。職ではなく、人にお金がついてくる。大卒者以上ならば、職務内容が明確にされない総合職として、長期雇用される。同期入社で職能資格が同じなら、部下のいる課長でも、部下をもたない管理職でも賃金の差はほとんどない。「メンバーシップ型雇用」などとも、最近は呼ばれる。

 今年に入り、コロナ禍から日本企業の在宅勤務は急増。リモートワークを実行していくためには、職務内容を明確化していく必要に迫られた。それも早急にだった。上司と部下は離ればなれとなり、評価は定量的な成果が基本となった。劇的な変化だったが、比較的うまくいっている。キリンビールは政府による緊急事態宣言の発令中、本社の人員を通常の1割以下に、営業部門を3割以下として、やり抜いた。リモートワークが成り立っているということは、ジョブ型雇用への移行が容易であることを表してもいる。

 もっとも、多くの日本企業はコロナ禍で経営に大打撃を受けている。成果主義がベースのジョブ型雇用は、総賃金コストを削減しやすい。

 もちろん偶然だが、コロナが拡大した今年は、かつて大量採用したバブル入社組(1988~92年入社)が、みな50代になった年と重なる。

 バブルが崩壊した後の90年代後半、日本企業は相次いで成果型賃金制度を導入。総賃金を絞るだけではなく、大きなリストラへと一部は動いていった。狙い撃ちされたのは、やはり大量採用され当時50代を迎えていた団塊世代だった。「リストラ断行で人心が乱れた。二度とやってはいけない」(自動車会社元社長)という反省は残る。このため、ジョブ型雇用を安易にリストラに結びつけてはならない。

 また、経済環境が一層厳しくなると、合従連衡をはじめM&Aは増えていく。

 企業数の多い業界は特にだ。従来の日本型では、どんなに優秀でも被買収会社出身者は認めてもらえない傾向があった。職務給型の特徴は、ダイバーシティー(多様性)との親和性にある。会社人間とは異なる、自立した強い個人が求められ、何より職務遂行力は必須となる。働き方は変わっていく。

 こんなジョブ型雇用が拡大するポイントは、年功型で出世した現在の経営者たちの意識がどこまで変われるかにかかる。

【プロフィル】永井隆

 ながい・たかし ジャーナリスト。明大卒。東京タイムズ記者を経て1992年からフリー。著書は『移民解禁』『EVウォーズ』『アサヒビール 30年目の逆襲』『サントリー対キリン』など多数。群馬県出身。

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