ライバルの企業同士が手を組むケースも
例えば、自動運転や電動化などの脅威にさらされている日本の自動車業界では、トヨタがAIの研究・開発を行う「トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント」を設立。AI関連企業と連携することで、電気自動車やコネクテッドカーなどの次世代技術を活用した自動車開発で遅れを取らないようにしています。
また、ライバルであるはずの企業同士が組むケースも出てきました。一部事業で競合関係にあるソニーとマイクロソフトは、昨年5月にクラウドサービスの分野で提携を発表。マイクロソフトのAI技術とソニーの半導体技術という互いに得意な分野を組み合わせ、ゲーム、家電など既存事業にイノベーションを起こそうとしています。
ものづくり企業だけでなく、サービス業でも「脱自前主義」は始まっています。
海外の事例ではありますが、世界最大のコンシューマー・エレクトロニクス見本市「CES2020」において、デルタ航空はライドシェア企業のLyft(リフト)との協業を発表しました。リフトの乗車中にマイルが貯まったり、航空便の発着時刻とリフトによる送迎をリンクさせたりするなどのサービスを提供していくそうです。
これは航空便の顧客データをリフトにも提供することで可能になるサービスです。企業にとって最も大切な資産である顧客データを他社と共有することで、デルタ航空は空の旅における総合的なサービスを提供し、顧客満足度を上げていこうとしているのです。
事業の「競争領域」と「協調領域」を見極めよ
互いの弱みを強みで補い合うことで、さらなる成長を遂げようとする--。これが「脱自前主義」の要諦ですが、とにかくいろんな企業と協力していけばいいというわけではありません。脱自前主義を実践するためには、事業における「競争領域」と「協調領域」を見極める必要があります。
AIの分野で言えば、協調領域はOCR(文字認識)のような技術が該当します。文字認識は読み込ませるデータが多いほど精度が上がっていくもの。しかも、紙の文章をスキャンして自動的にデジタルデータにできたら、とても助かる分野はたくさんあります。
これは業績アップに貢献するというより、業務効率化に資するタイプの技術です。ならば、1社が単独で技術開発するより、それが役に立つ企業がみんなで協力して投資していけば、全体がハッピーになります。こういう分野では積極的に協力関係を結ぶべきでしょう。
一方の競争領域は、需要予測のように業績に直結する技術が該当します。「明日どれだけ売れるのか」といった予測の技術は企業にとって非常に重要であり、各社が個別にしのぎを削るべき分野であるといえるからです。こうしたコア技術は自社の強みとして大切に磨いていくべきです。
今回の記事は途中からAI開発とは直接関係のない話題に感じたかもしれませんが、こうした「競争領域」と「協調領域」の見極めができていないと、「ここでは他社と協力して開発にあたるが、ここからはブラックボックスにしたい」というようなロジカルな判断にも至れません。その結果、「外部にデータを提供するのはなんとなく嫌だ」という抵抗感だけが組織の中に残り、AI開発も遅々として進まなくなってしまいます。
いまやAIをはじめとする新しい技術への対応は、ビジネスの成否を左右するようになりました。企業には他社と協力することのメリットとデメリットを見極め、競争と協調を織り交ぜたスピード感のある戦略を採用することが求められています。
それは反対にいえば、それくらいの柔軟さを持ってビジネスにあたらないと、もはや技術が進歩する速度についていけず、どんどん取り残されてしまうということでもあるのかもしれません。
【仕事で使えるAIリテラシー】は、AI開発、AI人材の育成・採用を手がけるSIGNATEのデータサイエンティスト・高田朋貴さんが、ビジネスパーソンとしてAIを正しく理解し、活用する方法を解説します。アーカイブはこちら