ブランドウォッチング

罪作り?なトヨタ「センチュリー」 “雲上ブランド”ゆえの公用車問題

秋月涼佑
秋月涼佑

意図しては作れない別格のカリスマブランド

 それにしても罪作りなのは「センチュリー」です。

 「センチュリー」は2019年度の販売台数389台。トヨタで圧倒的に少ない販売台数です。いくら車両価格が2000万円近い超高額車両とはいえ、メーカーが利益を出すことは難しいはずです。通常のボディー塗装が4層のところ、「水研ぎ」という工程含めて7層もの層を塗り重ねるなど、細部まで徹底したこだわりと手間暇をかけて製造されることを考えれば、もはや採算度外視のプロダクトに違いないのです。

 それもこれも、皇族方はじめ日本のトップ層が乗ることで営々と築いてきた別格のブランドの存在感がそうさせるわけですが、2018年6月に実施された21年ぶりのフルモデルチェンジが、そんな神話に新しい章を書き加えたことは間違いありません。

 問題は、そんな雲上ブランドに乗れるだけの立場の“人”がこの世の中にどれほど存在するだろうかということです。

 それが企業であってもSNSの普及やコンプライアンス厳格化で、トップでさえかつての鷹揚な立ち居振る舞いが憚られるシーンが増えたように思います。

 まして、日頃から市民の視線にさらされることが多い政治家、知事ともなれば、自然“別格”ブランドの利用を“過分”と感じる有権者も一定数は出てきてしまうということだと思います。

“モノづくり”の精神が自律的にブランド化

 それにしても、今回の件であらためて思い知らされたのが、ブランドというものが持つ生き物のような自律的エネルギーです。普段本連載では企業などが、ブランディングという活動を通してあるプロダクトやサービス、もしくは企業自体の本質を、生活者に理解してもらい共感してもらうための意識的活動を紹介しています。

 トヨタセンチュリーの場合は、ほとんどマーケティングらしいマーケティングは行われていません。ホームページに最低限の情報が記載されていますが、一般向けの他車種がこれでもかと映画かと見まがうような動画などリッチコンテンツでその機能や性能、特徴をアピールしていることを考えると、信じられないくらいの素っ気なさです。要は送り手の意図をはるかに超えたところでブランドが成立しているのです。

 最も近い存在は、かつてエンジンパワーやトルクについてカタログに「必要にして十分」とだけ記載していた英ロールスロイスでしょうか。センチュリーももはやスペックなどの世俗的な指標を超越した存在なのです。

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