高論卓説

副業・兼業制度の生かし方 残業代減補うだけなら効果なし

 日本企業の就業規則には、長年にわたり、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という順守項目があった。その背景には、企業が年功序列と終身雇用制度によって従業員を生涯にわたって面倒みる慣行があった。(古田利雄)

 バブル崩壊後、そのような慣行は崩れ、労働年齢は高齢化した。建築、運輸、介護、飲食サービスなどの業界では慢性的な人手不足が深刻な問題となっている。他方で、副業・兼業は人材交流によってイノベーションを生む点や、起業の準備期間として利用できるというプラスの意義も認識されるようになってきた。

 離職せずとも別の仕事に就いてスキルや経験を得ることができれば、労働者は、今の仕事より向いている仕事、幸せを実感できる仕事がないか探すことができるので従業員にとっては望ましく、また社会全体としても人材と仕事のミスマッチの是正を期待できる。雇用している側の企業としては業務に専念し、自社で労働していない時間はリフレッシュに充てることを望むので、企業と労働者との間に利益相反がある。

 法的には、従業員には憲法上の幸福追求権(13条)と職業選択の自由(22条)があるから、企業は一律に副業・兼業を禁止することはできない。しかし、従業員のこれらの権利も企業との雇用契約に基づく業務専念義務、競業避止義務、秘密保持義務などによって制限を受けることになる。

 政府は働き方改革実行計画(2017年3月)において「副業・兼業を認める方向でモデル就業規則を改定する」ことにし、厚生労働省は18年1月に上記の法的考え方を踏まえて副業・兼業を認めるモデル就業規則を公表した。このモデル就業規則では、副業・兼業の条文を設けて、労働者は、勤務時間外において他の会社などの業務に従事することができる。事前に会社に所定の届け出を行うものとするとした。

 ただし、その業務が(1)労務提供上の支障がある場合(2)企業秘密が漏洩(ろうえい)する場合(3)会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合(4)競業により、企業の利益を害する当たる場合-などには会社はこれを禁止または制限することができるとしている。

 副業・兼業を原則、禁止して企業の許可があった場合に許容するルールだったものを、許容して特に使用者である企業に支障が生じる場合にこれを禁止するものとして、原則と例外を入れ替えたもので大きな転換である。このため18年は副業解禁元年と言われることもある。

 既に大企業の中では副業・兼業をしやすいようにする制度改正を行ったところもある。筆者が社外役員をしている企業の中にも「カケモチ社員制度」を創設したものがある。

 副業・兼業制度が、労働者にとって、単に残業代の減少を経済的に補うだけのものとなれば、従業員は疲弊しプラスの効果が生まれづらい。副業・兼業を導入するには、個々の企業の事業内容を踏まえて、企業と従業員にとって望ましい在り方を検討し、啓蒙(けいもう)することが欠かせない。また、企業には兼業も含めて同労時間の管理義務があるのでこの点にも注意が必要だ。

【プロフィル】古田利雄 ふるた・としお 弁護士法人クレア法律事務所代表弁護士。1991年弁護士登録。ベンチャー起業支援をテーマに活動を続けている。法律専門家として複数の上場企業の社外役員も兼務。東京都出身。

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