厳しいレッドオーシャン市場でなぜ勝てるのか
でもそこで不思議なのは、基本スイーツ市場は新規参入のレッドオーシャンだったはず。実直なだけで勝てるわけはありません。SNS上などで見ると、商品ラインアップの豊富さとお手頃価格と美味しさのリーズナブル感が特に支持されているように見受けられます。それを実現しているのが「ファーム・ファクトリー」とよばれる工場直販の体制。北海道、九州などを含むなるべく店舗に近い場所に工場を置くなど力を入れているとのこと。
他にも契約農家からの仕入れによる素材への安心感訴求や、低糖質スイーツシリーズなど生活者ニーズに敏感な姿勢もうかがえます。また、季節のフルーツを使った商品やバレンタインなどのイベントプロモーションも折々行われていて常連客も飽きさせない工夫と死角がないマーケティング力の高さです。
それにしてもコンビニスイーツ全盛の時代、ストロングスタイルの「ケーキ屋さん」スタイルでの市場ポジション確保を素直にすごいと驚いてしまいますし、やはり商売はやり方だとつくづく思い知らされます。でもそんな驚きも、シャトレーゼのお店で、まさに老若男女幅広い客層、若いカップルもいれば、制服を着た学生さん、主婦らしき方にシニアのご夫婦、次から次へと来店するのを見れば、納得させられてしまうのです。
場外ホームラン級の認知度とシャトレーゼの販売網
そんな中、シャトレーゼが東京自由が丘発祥の老舗和菓子店「亀屋万年堂」を買収するというニュースが注目されました。(ナボナの亀屋万年堂を買収 山梨のシャトレーゼ)
亀屋万年堂と言えば、ちょっと上の世代ならば多くの人が知っている王貞治氏による「ナボナはお菓子のホームラン王です。」というTVCMで有名です。身も蓋もないほどストレートな直球勝負コピーに”世界の王”の説得力も加わって、もはや認知度などでは測りしれない、ましてお菓子の一ブランドをはるかに超える場外ホームラン級の知名度を獲得してしまったブランドと言えるでしょう。流通規模を考えれば、マーケティングミックスとしてはかなり異例の認知度突出型であったことは否めません。
そんな亀屋万年堂、ナボナブランドも、国内だけで600店舗以上海外展開もするシャトレーゼと合併することは、知名度に見合った販路を確保するという視点だけで考えても、きっと勝算があるのではないでしょうか。
日常の中に感じる非日常感や、癒しがとても貴重に思える今日この頃、空中戦より、草の根的な生活者の支持を積み上げるスタイルのシャトレーゼ流マーケティングが老舗ブランドをどう活かすか楽しみにしたいと思います。
【ブランドウォッチング】は秋月涼佑さんが話題の商品の市場背景や開発意図について専門家の視点で解説する連載コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら