「意外だったのは、司法制度において人権があまり尊重されていないと思える部分があることです。それと社会一般にグレーゾーンを殊の外、避けようとするのには驚きました」(ジュゼッペ)
法律家の息子らしい感想だ。バブル崩壊後、ちょうど日本の伝統的グレー文化は米国の白黒をはっきりさせる文化に倣うべきと盛んに言われていた時期だ。ジュゼッペは日本文化の得意技を捨てることに違和感を抱いたに違いない。
さて趣味は2つある。散策と写真だ。いや、正確な表現ではない。実は彼は通訳に加え、写真家としても職業上の登録をしている。だが、すべての趣味が仕事になるのでは遊びがなくなるので、あえて写真は趣味にとどめている。通訳として忙しすぎるのだ。(パンデミック中は違うが)年間200-250日は移動時間も含めた出張の日々である。
だから彼が住むヴェネツィアはクルマのない街ということもあるが、世界何処に出かけても1時間以内であれば歩く。そして興味のある被写体があればカメラを取り出す。
因みに、この「強制休眠中の仕事=趣味」が昨年、WHO(世界保健機関)のレポートの表紙に使われた。昨年2月末からイタリアが欧州で最初の大感染国になったのは、政府の感染症対策が2006年以降更新されていなかったからだ。このように告発した研究者のレポートである。しかし、そのレポートは公表が即日取り下げられ、その処置自体も多くの疑念を呼びマスメディアでも話題になった。
当然ながら、ジュゼッペは内容にはまったく関知していない。ただ、彼の写真の腕前が只者ではないことを物語るエピソードである。彼は通訳にまつわる悲喜こもごものエピソードと写真をおさめた本をいつの日か出したいと考えている。
ジュゼッペのように才能と集中力のある人間は、すべてを趣味におさめておくのが難しい。相手かまわず「好きを仕事にすればいい」と気楽に言ってはいけない。「人を見てものを言え」である。
【ミラノの創作系男子たち】はイタリア在住歴の長い安西洋之さんが、ミラノを拠点に活躍する世界各国のクリエイターの働き方や人生観を紹介する連載コラムです。更新は原則第2水曜日。アーカイブはこちらから。安西さんはSankeiBizで別のコラム【ローカリゼーションマップ】も連載中です。