最強のコミュニケーション術

デキる人が使う「数字の心理学」 相手の感情を動かし、仕事の評価まで変える

藤田尚弓
藤田尚弓

 伝え方や言い回しを変えると、自分を取り巻く環境が変わり、やってくるチャンスも変わっていきます。皆さんは自分のコミュニケーションに自信がありますか? この連載ではコミュニケーション研究家の藤田尚弓が、ビジネスシーンで役立つ「最強のコミュニケーション術」をご紹介していきます。

 第30回は「数字を使ったコミュニケーション」がテーマです。ビジネスパーソンとして数字の大切さを知っている人、実際に使っている人は多いと思います。しかし、数字を効果的に活用してコミュニケーションができているかというと、自信を持ってYESと答えられる人は少ないのではないでしょうか。

 話し方、伝え方においても、数字は大切な役割を担っています。デキるビジネスパーソンが使っている、数字を使ったコミュニケーションの基本編を確認しておきましょう。

数字を用いて「感情を動かす」

 正しいことをいくら伝えても「面倒」「必要性を感じない」などの理由で、相手に動いてもらえなかったという経験が皆さんにもあると思います。こんなとき、皆さんならどのように対処するでしょうか。

 「熱心に話す」「諦めずに何度も伝える」「根拠やメリットを示す」など具体的な方法はいろいろ浮かぶと思います。これらに共通しているのは、相手の気持ちを動かしたいということ。こんなときにも是非活用してほしいのが数字です。

 数字には説得力がありますので、論理的な人の態度を変えたいときには数字を使って話すよう心がけている人が多いと思います。しかし、どちらかというと感情や感覚優先な人たちを動かすときに、なぜか抜け落ちてしまうのも数字です。

 人は「論理で納得し、感情で動く」と言われています。数字を使うことで、その両方に訴求することも可能なのです。例を見てみましょう。

《例》歩きたばこの危険性を伝えるキャッチコピー

「700度の火を持って私たちは人とすれ違っている」(日本たばこ産業喫煙マナー広告2004年)

 これは、喫煙マナー広告で使われたキャッチコピーです。「歩きタバコくらい」と軽く考えていた人も、700度という具体的な数字を提示されるとドキっとするのではないでしょうか。数字を使うと、理路整然と伝えるイメージや冷たさなどを感じる人もいるかも知れません。しかし数字で具体的に伝えることには、熱心に働きかける時のような、気持ちを動かす効果もあるのです

相手の感覚を「数字で変える」とは

 デパートで鞄が5万円で売っていたとします。あなたは買おうかどうか迷ったまま、店を後にしました。次の日、もう一度売り場に行ってみるとセールが行われていて、昨日迷っていた鞄が3万円になっていました。あなたならどう感じますか?

 「安くなった!」と感じて購入する人は多いのではないでしょうか。ところが、鞄を買った翌日、もう一度デパートの売り場に行くと、昨日3万円で買った鞄はさらに値引きされていて2万円になっていました。あなたはどう感じるでしょうか?

 昨日は「得をした!」と感じたのに、一転して「損をした!」と悔しく感じる人が多いのではないでしょうか。そもそも5万円の価値があると感じ、購入するかどうか考えていた鞄。それが定価より安く買えると得をしたと感じ、購入した額よりも安く売られると損をしたと感じる。私たちの感覚は絶対的ではなく、相対的なものなのです。

▼予想していたより遅い/早い

 相対的に感じる私たちの判断に、数字は影響を与えます。

 あなたが部下に仕事を頼んだときに「18時までならできそうです」と言われたと想像してください。部下が頼んだ仕事を持ってくるのが予定より2時間早い16時であれば「仕事が早い」と感じるのではないでしょうか。逆に約束した時間よりも2時間遅くなってしまった場合はどうでしょうか。

 仕事の見積もりをついつい甘くしてしまうことが、自分の評価にどれほど影響を与えるかよくわかると思います。

▼本当は3つ欲しいが、2つでいい

 これは何かを頼むときなどにも応用できます。以下の頼み方を比較してみましょう。

《依頼の例》

A:「忙しいところ申し訳ないんだけど、A社とB社の見積もり書を3パターンずつ作ってもらえないかな。あ、ごめん、やっぱり忙しいよね。2パターンずつでいいので作ってもらえないかな」

B:「忙しいところ申し訳ないんだけど、A社とB社の見積もり書を2パターンずつ作ってもらえないかな」

 3パターン作成してほしいが、相手が忙しそうなので譲歩した形のA。ストレートにお願いしたB。相手が断りにくいのはAです。事実としてはどちらも同じなのですが、3案を基準に考えた場合、2案は相手が折れてくれたように感じてしまうのです。

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