そもそも仕事に対するスタンスは多様だ。大きく分けるならば、仕事を目的と考えるか、手段と考えるかという違いがある。その仕事をすること自体が目的であり、喜びなのか、あるいはあくまで稼ぐ手段なのか。いかにも前者はOKで後者はNGというような意見もあるだろうが、これは単純に良い・悪いと判断できる話ではない。
この「仕事が楽しい」ということ自体、気をつけて考えなくてはならない概念なのだ。そして、仕事が楽しくないからと言って、自分を責めてはいけない。その人自身が楽しめていなかったとしても、きっと何らかの形で役には立っているのである。
「意識高い系」の終わり
さて、この騒動に関連して、気づいたことがある。それは、社会全体が「脱・意識高い系」に向かっていないか。あるいは、意識高い系がよりマイノリティ化し、その他大勢との分断が顕著になっていないかということである。
この件と、例のサントリーホールディングスの新浪剛史社長による「45歳定年制」炎上事件は、実はつながっているのではないかと私は見ている。どちらも10年前であれば、20~30代に支持されたフレーズだったのではないか。今よりも当時の方が、上の世代に退場してもらいたいという想いや、仕事で活躍して「輝きたい」という気持ちに満ち溢れた人が多かったように思える。
これらの件に関して批判の声が大きかったのは、現在の社会で「会社や仕事との向き合い方」が変化していることを物語っていないだろうか。完全に会社から離れるわけでもなく、仕事が嫌いかというとそうでもないが、いかにも自律した人材が自分の道を切り開いていく様子や、仕事で輝く様子、その背景にある新自由主義や自己責任論にうんざりしているのではないかと思えてならない。
多くの人は今回の文言に対して「余計なお世話だ」と感じただろう。しかし私に言わせると、そもそも今回の広告に関してはセンスが古いと感じた次第である。緊急事態宣言が明け、ワクチンの接種率が高まり、様々な緩和策が模索される中ではあるが、人々は先行き不透明感を抱きつつ働いている。決定的に空気の読み方が下手だった上、センスが古かったのではないか。意識高い系の中でも、いかに働かないかという模索が行われる中、「今日の仕事は楽しみですか。」は、深い問いかけでもなければ、何かを鼓舞することにもならないのである。
経営者やメディア企業が、普通のビジネスパーソンからも、意識高い系からすらも、ずれていると感じた次第であった。最後に、働いている同志の皆さん。その仕事は尊い。誇りと責任を胸に、息抜きながら生き抜こう。
【働き方ラボ】は働き方評論家の常見陽平さんが「仕事・キャリア」をテーマに、上昇志向のビジネスパーソンが今の時代を生き抜くために必要な知識やテクニックを紹介する連載コラムです。更新は原則隔週木曜日。アーカイブはこちら。その他、YouTubeチャンネル「常見陽平」も随時更新中。