職場の労働環境に不満がある時、どう対応するのが最善なのか。特定社会保険労務士の大槻智之さんは「明らかに法令違反がある場合には労働基準監督署に相談すべきだ。ただ、ブラック企業というよりも、自分の価値観と合っていないだけの可能性もあるので、冷静に見極めたほうがいい」という--。
あなたの会社は本当にブラック企業なのか
「無理して残ってもつらいだけだよ。退職すればいいじゃん」
私はたまに、社会人歴の浅い方から勤め先の労働環境に関して相談を受けることがあります。『どうしたらよいか教えてください』と。ただ、大抵は最終的にこのようなアドバイスになることがほとんどです。なぜなら、よくよく内容を聞いてみると、必ずしも会社や上司が悪いというわけではないからです。
“ブラック企業”というワードはすっかり定着しており、社会人であればこの言葉そのものを知らないという人はほとんどいないのではないでしょうか。その一方で、「ブラック企業の定義は?」と質問すると途端にあやふやな回答になる方がほとんどです。その理由は、法律上ブラック企業という言葉の定義は存在しないからです。
ネットで“ブラック企業 定義”と検索すると「新興産業において若者を大量に採用し、過重労働・違法労働・パワハラによって使いつぶし、次々と離職に追い込む成長大企業」「従業員の人権を踏みにじるようなすべての行為を認識しつつも適切な対応をせずに放置している企業」(いずれも2021年9月28日現在のWikipediaより)と書かれています。
厚労省はブラック企業の定義をしていない
この他では極端な長時間労働やノルマを課す、企業全体のコンプライアンス意識が低いといったものも定義として挙げられています。このように、世間的にもブラック企業の定義はザックリとした印象のものばかりなので、みんなが考えるブラック企業の定義そのものもあやふやな感じになってしまっているのでしょう。
なお、厚生労働省もブラック企業について定義をしておらず、「若者の『使い捨て』が疑われる企業等」と表現しています。
長時間労働の考え方は全員一緒ではない
ブラック企業の定義があやふやなので、その解釈は人によって異なります。
例えば「極端な長時間労働」とありますが、その具体的な時間は何時間なのかはわかりません。労働基準法では36協定を締結していれば1カ月に45時間までは時間外労働(いわゆる残業)をさせても問題ありません。さらに、特別条項があれば、条件によっては1カ月100時間未満までは残業可能なのです。
この36協定で締結した時間を超えて残業させるような場合は、それはもはやブラックうんぬんではなく法令違反となるわけです。ただし、これはあくまでも法令の問題であり、長時間労働と感じるかどうかはその人次第です。
もともと「残業なんか一切したくない」という人にとっては1カ月で10時間残業しただけでも「残業時間が長いブラック企業」という人もいれば、「前職では毎月60時間が当たり前だったので10時間はとても楽です」という人もいます。
この話はどちらが正しいという話ではなく、『その人にとってどちらの労働環境が向いているのか』という話になります。ですから、社会人歴の浅い方から相談をされると、いったんは私の感じる価値観をお話はしますが、納得できなければ、冒頭のようなアドバイスをすることになるわけです。