■「教育的価値を広げたい」大迫が引退後に“持続可能”な取り組み
日本長距離界は「駅伝」があることで、大学、実業団の全体的なレベルは高い。しかし、逆に言えば“駅伝縛り”があることで、トップ・オブ・トップの育成が遅れている感は否めない。大迫がやろうとしているのは、これまでの日本にはない“強化スタイル”。「オレゴン・プロジェクト」の日本版のようなイメージではないだろうか。
未来のアスリートを育成する大学生対象の前述のプログラムは、昨夏に8日間の「短期キャンプ」を行った。ビジネス的に成功するかどうかは未知数だが、「やりたい」ことを自分の力で取り組んでいく方法はアスリートの“新たなセカンドキャリア”といえるかもしれない。
指導者になりたいからといって、すでにトップレベルにある実業団や大学の監督を任されることはほぼないからだ。しかも、自分のチームなら解任されることはなく、会社都合で陸上部が休部に追い込まれることもない。本人の意思が続く限り、“持続可能”な取り組みができる。
大迫は日本全国を縦断しながら、小・中学生を指導するプログラムもすでに本格稼働している。参加料は無料で、開催地の企業が主にスポンサーになっている。「走ること」の楽しさやテクニックを教えるだけではなく、指導するアスリートを通じて目標にたどり着くため、夢を叶える上で大切な考え方を伝えて、教育的価値を広げたい、という。
■五輪メダリストたちの甘くない現実
一方、大迫より成績が上の五輪メダリストたちは「今後」どうしていくのだろうか。まずは日本が過去の夏季五輪で獲得したメダル数(金、銀、銅)を見てほしい。
92年 バルセロナ 22個(3、8、11)
96年 アトランタ 14個(3、6、5)
00年 シドニー 18個(5、8、5)
04年 アテネ 37個(16、9、12)
08年 北京 25個(9、6、10)
12年 ロンドン 38個(7、14、17)
16年 リオ 41個(12、8、21)
21年 東京 58個(27、14、17)
東京五輪ではメダル数が過去最多で、金メダルの数は27個に到達した。しかし、金メダルを獲得したアスリートの名前をどれだけ覚えているだろうか?
スポーツ大国の米国では五輪でメダルを獲得(東京五輪で金39、銀41、銅33)しても必ずしも大きなニュースになるわけではない。人気種目、人気選手、話題性のある選手がピックアップされるのだ。規模は違うが、日本も米国のような状況になりつつある。
なお、JOC(日本オリンピック委員会)がメダリストに設定した報奨金は、金500万円、銀200万円、銅100万円。加えて、それぞれの団体が報奨金を出すこともある。
日本陸上競技連盟の場合は、金2000万円、銀1000万円、銅800万円。日本卓球協会は、金でシングルス1000万円、ダブルス1人500万円、団体で1人400万円。日本体操協会は、金50万円、銀30万円、銅20万円。一方、メダルを大量に獲得した日本水泳連盟と全日本柔道連盟に報奨金はなかった。
つまり、五輪でメダルを獲得してもインセンティブがないことも珍しくなく、あっても一生涯分のビッグボーナスが出るわけではない。メダリストになっても生きていくために、セカンドキャリアでしっかりと稼ぐ必要がある。