株式会社ナスタ 代表取締役社長
笹川 順平氏 インタビュー
(2015年3月取材)
-株式会社ナスタに入社した経緯を教えてください
マッキンゼーを辞めて帰国した後、「仕事とは何か、生活とは何か」を考えている中で、ある人にこの会社を紹介されました。
日本経済を支えているのは秀逸な中小企業であり、世の中の多くの人がそこで働き、暮らしています。例えばナスタは、従業員が300人、国内市場が主のメーカーで、大企業と比較して給料も決して高いとは言えません。けれども、雰囲気に無理がなく、幸せそうに働いています。それがどこから来ているのか、経営の姿勢はどういうものかに興味を持ちまして、思い切って飛び込んでみたのです。
-勇気のいる決断だったのでは
最終的には、当時の社長、西村さんにお会いして心を決めました。西村さんは強烈な経営能力と確固たる哲学をお持ちの方で、そのお話を伺い、それまで自分がいた〝肩書きに守られている世界〟から抜け出なければいけないと強く思ったのです。
商社、コンサル会社からすれば正反対の業種である、「メーカー」という非常にリアルな世界への転身になりました。今は、経営者としてとても充実した幸せな日々が送れていますが、それも会社の仲間に支えられ、チームでやってこられたからであって、本当に感謝の気持ちしかありません。
振り返ってみれば、ナスタに入ることを決めたのは33歳のときのことで、それは私の人生の中で最も大きな決断でしたし、最も誇らしい決断であったと感じています。
-事業内容を教えてください
ナスタは、建築にまつわる商材の製造、販売を行っている会社で、現在、約5,000種の商品を扱っています。高度成長期の建築需要の高まりを背景に、大手企業では手の回らない多様な備品の注文に応えるかたちで、自然と多品種展開になっていったのです。
しかし、時代背景が大きく変化し、市場規模そのものが小さくなっていく中で、お客様からは「他社と差別化できるものを提案してほしい」と言われるようになってきました。
-時代背景や市場の変化にどのように取り組んでいますか
大きな転機となったのが、2008年のリーマンショックでした。売り上げが4割近く落ち込み、そこからのナスタの再生には、"作れる物をとことん販売する”売上至上主義から、顧客の先を読んで提案する付加価値創造型に徹底的にシフトする必要がありました。
そして、社長に就任して策定した「3か年計画」に基づき、段階を踏みながら、ナスタという会社の変革を行っているところです。昨年の10月には、社名を現在の「ナスタ」に変更するとともに、新しい会社のコンセプトを打ち出し、商品の見直しを行っていきます。
まず、他社さんがつくっているようなものを後追いでつくることを、一切禁止しました。そして、「新しい付加価値をマストとし、必ず『イノベーション』を盛り込んだものをつくる、お客様に驚きを持って喜んでいただけるものをつくる」。これに徹しようというのが、新しいナスタの姿勢です。
本当の意味でお客様のほうを向かなければ、そのコンセプトは実現できないでしょう。しかし、今ある売り上げをたとえ1割減らしてでも、私は、新しい価値あるものだけをつくる会社にしていきたいのです。なぜなら、そのほうが間違いなく、ナスタが「社会的意義のある会社」になれるからです。
「お客様や世の中にどのような価値を与えている会社か?」と問われたとき、答えられない会社でありたくないと思っています。大切なのは「何をつくっているか」ではなく、「ナスタの製品が暮らしをどう変えたか」です。つくって売ったその先にいるお客様に、何も新しい価値を提供できないような商品は、いらないと思っています。
 「Qual(クオール)」「D-all(ディオール)」の記者発表会にて
-「イノベーション」とは
例えば、昨年の10月に発売した住宅用ポスト「Qual(クオール)」「D-all(ディオール)」は、ネット通販のアマゾンさんに「受け口のサイズを1cm広げてくれませんか」と言われたことがきっかけで共同開発した商品です。受け口が3cmから4cmに広がるだけでどれほど劇的に生活が変化するかを、e-コマース産業は見抜いていたわけです。
メール便や大型の郵便物が1回の配送で済むというのは、手間とストレスを省き、通販会社、配送会社だけでなく、お客様にとっても価値のあることです。自社の売り上げがどうこうを通り越して「社会的に意義のある仕事」であると感じ、全社的なプロジェクトとして取り組みを始めました。
製造にあたっては、ポストはステンレス製が常識だったものを樹脂製に切り替え、すべて自社工場で行うことにしました。ナスタの製造部門には150人くらい社員がいるのですが、製造を外注から内製化することでその社員たちも「俺たちが世の中を変えられるんだ」という意識になり、モチベーションを持って取り組んでくれました。
これと似たようなことが一つひとつの商材にあって、その意味では、イノベーションの可能性はとても大きくあると感じています。
-これからの日本を面白くしていく取組みは?
去る4月1日、新たな会社、「CoLife(コーライフ)」を設立しました。この新会社の本格的始動が、楽しみでしょうがないのです。
業務内容は、「家に住まう人すべての悩みに対応する」サービスプラットフォームです。 これまでメーカーはプロダクトアウト指向で、売ってしまえばそれで終わりでした。ところが、お客様は違います。住んでみて、使ってみて、困りごとが出てくるのです。「CoLife」は、会員の方からのあらゆる問い合わせに対処し、交換が必要なものはその手配を、リフォームがお望みであればリフォームをお引き受けします。
ハードの製造、販売としてのナスタと、ソフトの提供としての「CoLife」が両輪となって、お客様のニーズすべてに寄り添い解決していこうというモデルです。新しい価値を提供し、お客様に喜んでいただくというコンセプトを、商品の枠を超えて、メーカーの在り方そのもののイノベーションに広げていくものであり、ぜひ軌道に乗せていきたいと考えています。
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