今日もビジネス脳天気

得体の知れない疲れの正体とは 効率的な解消法を伝授

枝川義邦

 「3密を避けて、ステイホーム」という伝わりやすいメッセージにより、職場や学校に出向かず、在宅により仕事や勉学に励む姿が定着しました。タイトルよろしく、この状況でも能天気にいきたいものですが、どうもこのところ、得体の知れない疲れに見舞われていて困る、なんて声も聞こえてきます。

 今回は、このような状況での脳やこころの状態を取り上げて、ごくごく簡単な解消法もご提案します。SankeiBiz読者の皆さんの参考になれば幸いです。

 昨今の状況といえば、オンラインでのやりとりが格段に増えて来たのが特徴のひとつでしょう。会議や授業だけでなく、モノを買うのもオンライン、娯楽の多くもオンライン、と生活のほとんどにオンライン化が導入されてきています。いまやスマホがひとつあれば多くの事ができてしまうので、テクノロジーの進歩に感心しつつも、生活の多くが転換期にあることを実感します。

 それと同時に、どうも抜けきらない疲れを感じるようにもなったという声も多くなっているようです。オンラインでのやり取りが日常となった今、疲れを感じやすくなっているとしたら、その原因はなんでしょうか。

 ひとくちに言うと、「脳」と「こころ」と「身体」のあらゆる方向より、疲れが溜まるような生活を強いられているから、となりましょう。今回は、その中でも「脳」と「こころ」をメインに考えていきます。

 脳過労でイライラ…15分程度の昼寝が効果的

 まずは「脳の疲れ」から。在宅で仕事をしていると、どのタイミングで休憩を取ったらよいのか分からなくなる、いつの間にか夜になっている、という声を聞きます。一日中、ずっとパソコンの画面を見ていること自体が仕事になっているんじゃないかとさえ思えてくる、という冗談とも取れない切実な思いを口にする方もいました。

 パソコンやスマホの画面を見続けていると、眼からは相当な光の情報が入ってきます。私たちの脳は、できる限り注意を向ける対象をしぼって、入ってくる情報に制限をかけてはいますが、それでも情報量が大きい状態が続いているわけです。大量の情報を処理し続けて、脳の疲れが溜まっているのが最近の在宅勤務でみられやすい例です。

 パソコンやスマホを使った作業では、単純に情報の多さだけでなく、いくつかのアプリを同時に立ち上げて、それらを行き来する、いわゆる“マルチタスク”が可能なことも、脳を疲れさせる原因です。

 脳は厳密にはマルチタスクができないのですが、素早くタスクを切り替えることによって、マルチタスクをした気分を味わうことはできます。このタスクの切り替えを頻繁にすると、ひとつのことをし続けるよりも、脳の疲労が大きくなり、ストレスを溜めてしまうと考えられています。

 ましてや、リアルに会っていれば感じられる雰囲気のような情報も、画面を通してでは感じられにくくなっているので、言葉には表れていないけど、このひと、実はどう考えているのだろう、などと思いをめぐらせるためにも余計に脳を使うことになってしまうでしょう。

 このようなことを続けると、脳が過労状態になってしまいます。脳過労の状態では、単純ミスが多くなったり、ちょっとしたことが覚えられなくなったりします。なにかの作業をしていても、「あれ、なにをしようとしていたんだっけ?」となったときには要注意です。一時的に記憶して、それを使って次の作業をするという脳の機能が低下しているのです。

 また、怒りっぽくなる方もいます。脳の中では、怒りの種に火がついても、大きくしないような仕組みがありますが、そのブレーキが効きにくくなってしまうので、ちょっとしたことで怒鳴ってしまったり、いつまでも怒りの対象への考えが消えずにイライラし続ける、なんてことにもなり易くなるのです。

 脳過労に気づいたら、まずはパソコンやスマホから離れて、少し休みましょう。特に、脳を休ませることが肝心です。もしかして、パソコンを使い続けて、休憩中はスマホのゲームをしてみたり、ネットのニュースをチェックしたりしていませんか。このようなことは気分転換にはなりますが、真の意味での休憩にはなりません。脳は働き続けることになって、むしろ疲れがどんどん溜まっていってしまうでしょう。

 ではどうすればよいか。休憩中は、できる限り“ぼーっとする”のが良いのです。いまはデジタル機器を1日中手放してデジタル・デトックスをするわけにはいかない方も多いと思いますので、極力“ぼーっと”するか、もし状況が許せば、軽く15分程度の昼寝を取るのも、脳をリフレッシュさせて作業効率や集中力を回復させるには格好の手段です。

 昼寝は長く取り過ぎると、起きても脳が眠ったようになっていることや夜の睡眠の質を低下させてしまうので休憩としては逆効果です。眠り足りないかも知れませんが、15分程度で起きてしまうのが効果的です。昼寝の前にコーヒーなどでカフェインを摂ると、眠りすぎを防いだり、昼寝により回復する脳機能が持続する効果も期待できるのでお得感もあるでしょう。

 また、このような脳の疲れは、睡眠不足によっても生じやすくなります。在宅勤務になり、「睡眠時間が以前よりも長く取れるようになった」と喜ぶ声は聞こえて来ますが、見通しが立たない状況で、なんとなく不安に感じていることがあったりすると、睡眠の質が低下していることもあり得ます。質の高い睡眠が取れないと、時間をかけても充分眠ったことにはならないので、心当たりがある方は、睡眠についても見直してみるとよいでしょう。

 こころの疲れ解消には「満足感」と「癒やされ感」

 そして、「こころの疲れ」もあなどれません。こころの疲れは、身体の疲れや、脳の疲れからも引き起こされることがありますが、先行きが見えない状態が続いたり、在宅で仕事をすることで、日常生活とのめりはりが感じられないことでも生じ得ます。このようなこころの疲れを取るためには、「満足感」と「癒やされ感」が大切です。

 ここでは「満足感」について考えてみましょう。在宅で仕事を進めていると、やったらやっただけの「手応え」がないことが多くあります。仕事がひと息ついたときに、それを共有する相手がいないこともひとつの理由ですが、どれだけやったらよいのかが見えていないことも原因でしょう。

 職場でどんなに疲れていても、「やりきった!」という満足感があれば元気に帰宅できるものです。元気が余って、帰りにちょっと一杯、なんてこともあったのではないでしょうか。

 しかし、いまの状況では、なかなか「やりきった」という感覚が持ちにくくなっています。そんなときには、一日の仕事内容を可視化することが重要です。見えない敵とばくぜんと戦い続けるよりは、全体が見え、部分部分も見えている状態で、ひとつ一つを丁寧にこなしていったら難攻不落のラスボスも倒せた、となれば大きな充実感も得られるでしょう。

 となると、その日にすべき仕事のタスクリストを作って、ひと息つく毎にそれを消していくのが効果的です。タスクは具体的で、一日の仕事をいくつかの小さい項目で区切ったものがよいでしょう。

 これは、脳では、目の前のハードルを越えるときに「報酬」として感じるしくみが働くことからも有効な方法といえます。タスクをこなして、それを消す、つまりひとつ仕事を完了して次の仕事に移ることで今日の大きな目標達成に近づいているということを意識できると、脳内でドーパミンという物質が情報を伝えるようになって、うれしい、たのしい、大好き、という気分にもなってくるものです。

 タスクを時間で区切る場合には、ポモドーロ・テクニックという方法があります。タスクを「30分1本勝負」に区切って、25分進めたら5分は休む。休みの時間では、仕事の振り返りをしても良いですが、1時間程度、座って仕事をしたならば、一度は立ち上がって休憩を入れた方がよいでしょう。そうすると集中力も持続しやすく、仕事の効率も上がるといわれています。

 あるいは、一日の終わりに日記をつけることも効果がある方法です。日記では、やったことを並べるだけでなく、そのときの感情も含めて振り返ると、自分を見つめる目が養えるので心の平穏にもつながります。なにか不安に感じていることがあれば、いちど脳の外に出すことで、安眠を得やすくなるかも知れません。

 このように、この状況で感じやすい疲れの解消には、短期的には、いくつかの方法でアプローチできそうです。しかし長期的には、やはり「食事・運動・睡眠」の健康三本柱が大切です。脳も臓器のひとつ。持続可能性を高めるには、やはり、健康的な生活が効くのです。

枝川義邦(えだがわ・よしくに) 脳科学者
早稲田大学理工学術院 教授
東京大学にて薬学の博士号、早稲田大学にてMBAを取得。早稲田大学高等研究所准教授などを経て現職。人材・組織開発、マーケティングなどを軸として、脳の働きとビジネスとの接点についてを研究テーマとしている。テレビ出演や雑誌取材、講演なども多い。著書に『「脳が若い人」と「脳が老ける人」の習慣』(明日香出版社)など。2015年早稲田大学ティーチングアワード総長賞、2017年ユーキャン新語・流行語大賞を「睡眠負債」にて受賞。

【今日もビジネス脳天気】では、脳科学者の枝川義邦さんが、イノベーションを目指す経営者やビジネスパーソンに、ビジネスにかかわる脳の働きを様々な角度からわかりやすく解説します。