「グローバル都市・東京」随一のビジネス地区である大手町・丸の内・有楽町エリア。頭文字を取り「大丸有エリア」と呼ばれる。江戸時代、大名や旗本の武家地だったこの一帯に、近代日本の幕開けとともに日本初のオフィス街の整備が始まってから130年が経ち、今では世界有数のビジネス街へと変貌を遂げた。4300事業所、就業者28万人が集うこのまちには今、スタートアップが続々と集結している。本連載では大丸有エリアのスタートアップ企業を紹介する。第1回は「大丸有にスタートアップが集まるわけ」。
4300事業所・28万人が集積する大丸有
東京駅前と皇居の間に位置する大丸有エリア。東京ドーム26個分・約123haに101棟のビルがそびえ、約4300の事業所が入居している。上場企業約107社が本社を置き、その売上高の合計は約122兆円。商社や銀行はじめ、重厚長大産業のほか、ITや人材派遣、プロフェッショナルファームなどあらゆる業種が顔を揃える。就業者数は28万人。かつてはビジネスオンリーのまちだったが、近ごろでは話題のカフェや深夜営業の飲食店、セレクトショップといった商業店舗のほか、ホテル、美術館などもある多機能なまちに変貌を遂げた。季節ごとの多彩なイベントが開催され、就業者だけでなく、まちの外からの来訪者で通りが埋めつくされる光景もしばしばみられるようになった。このまちに、今、続々と集まっているのが「イノベーションを興して再び新しい日本、世界の未来を創ろう」と意気に燃えるスタートアップ企業だ。
企業・人材の集積を生かしたイノベーションエコシスエム
なぜ大丸有にスタートアップ企業が集まるのか。その最大の理由に、「企業・人材の集積」と、集積を生かした「オープンイノベーション」と「エコシステム」の仕組みづくりが、まちづくりの一環として続けられてきたことが挙げられる。
オープンイノベーションとは、企業、大学、研究施設、個人などが、互いのアイデアやサービス、ノウハウ、データなどのリソースを掛け合わせて革新的な技術やサービスの創出を目指すもの。また、エコシステムとは、スタートアップの成長に必要な投資家や研究機関、アカデミア、弁護士・会計士のほか、スタートアップとの協業・共創を求める大企業、開発したサービスプロダクトの利用者・購入者など含めた環境を生態系(ecosystem)になぞらえて呼んでいるものだ。
国や地方自治体もイノベーションとエコシステムづくりには力を注いでいる。国は昨年6月に、「スタートアップ・エコシステム拠点形成戦略」を発表した。世界に伍する日本型のスタートアップ・エコシステムの拠点の形成を目指すもので、地方自治体、大学、民間組織等が協働してスタートアップ・エコシステムの形成に取り組む「エコシステム拠点都市」を認定、認定拠点に対し、政府や民間サポーターによる集中的な支援を実施する。東京都も、「スタートアップ・エコシステム 東京コンソーシアム」を今年1月に立ち上げた。国際都市間競争に打ち勝つため、エコシステムの形成を軸にした成長戦略を展開、国が発表した同戦略における拠点都市として選定を受けるべく準備を進めている。
この「イノベーション」と「エコシステム」の土壌づくり、大丸有では20年以上前から続けられてきたことだ。大丸有で30棟のオフィスビルを所有または管理する三菱地所は、19世紀末より、大丸有のまちづくりを担ってきた。日本初となるオフィス街の整備をはじめ、まちの多機能化、ソフト化などを推進しており、近年、大丸有エリアを「スタートアップと大企業の交流拠点」と再定義した。まちを「人や企業が集まることで、新しい発見や出会い、アイデアやイノベーションなど、新たな価値を生み続ける舞台」と捉え、イノベーション創発とデジタル基盤の強化に注力している。
同社がイノベーション創発やエコシステムの形成に本格的に着手したのは2000年頃。ベンチャー支援組織「丸の内フロンティア」の立ち上げにまで遡る。以降、次々とスタートアップ拠点となる交流・事業成長拠点を開設し、入居する海外の成長企業や国内スタートアップの成長をサポート。そのスタートアップの成長実績が、別の新たなスタートアップを惹きつける要因の1つとなっている。
複数の交流・事業成長拠点が集中
それでは、交流空間・事業成長拠点ではどのようなサポートが行われているのか。現在、三菱地所が手掛けるスタートアップ拠点は主に4施設。国内外の成長企業を対象とした事業開発支援付サービスオフィスと、会員制ビジネスクラブ「東京21cクラブ」で構成される「EGG JAPAN」、国内の最先端スタートアップや海外成長企業の拠点となっている「Global Business Hub Tokyo(グローバルビジネスハブ東京)」、フィンテック領域のスタートアップが集まる「FINOLAB(フィノラボ)」、AI・IoT・ロボティクス技術などを扱う企業が利用する「Inspired.Lab(インスパイアード・ラボ)」――があり、4施設合計で約150社のスタートアップが入居する。
これらの交流空間・事業成長拠点に入居するスタートアップに対し、同社ではネットワーキングパーティや大企業とのマッチング、入居企業同士の懇親会、各種セミナーなど、数々のイベントを開催している。またプロフェッショナルによるアドバイスやメンタリングの機会を提供し、事業拡大フェーズにおいてスタートアップが抱えがちな問題の解決手段を助言するなど、ビジネス開発を支援する。
技術を開発するスタートアップにとって、ハードルとなるのが、資金や人材のほかに、開発した商品やサービスを試す実践の機会がなかなかないことだ。そこで同社では保有する大丸有エリアに保有する建物を含めエリアを活用した実証実験の機会を提供するほか、開発された新技術やサービスを同社グループにおいて積極的に採用。実際に大丸有でパーソナルモビリティの自動運転システムや無人販売ショーケースの実証実験が行われたほか、生体認証システムの同社オフィスへの採用などが実現した。そのほか、同社自らが展覧会等に出展し、入居するスタートアップの広報活動を実施したことも。こうしたスタートアップを成長軌道にのせるための全方位的な支援が、スタートアップ同士の口コミなどで広がり、スタートアップ拠点へ入居希望者が押し寄せ、拠点開設後すぐに増床するケースもあった。
ウィズコロナで考えるリアルの価値
交流空間・事業成長拠点は、さまざまなスタートアップの成長を支援してきた一方、足元では新型コロナウイルスの感染防止のため、交流機会などは停止せざるを得ない状況にある。今後、新型コロナウイルスを経験した社会は、こうした交流空間・事業成長拠点をどう捉えることになるのだろうか。
三菱地所でスタートアップ拠点の運営に関わる同社xTECH運営部ユニットリーダ-の堺美夫氏は、アフター/ウィズコロナと交流拠点の重要性についてこう強調する。
「2007年のEGG JAPAN設立よりスタートアップの誘致を行ってきており、その後、リーマンショック、東日本大震災などがあったものの、継続的にスタートアップの誘致・支援を積極的に行ってきた。今回のコロナショックがあるなかでも、スタートアップが今後の日本の成長を担う有力なプレイヤーという認識は変わらない。スタートアップが集積するまちは、大企業にとっても魅力あるまちとなる。丸の内には4800社の大企業がおり、スタートアップ企業も大手町ビルを中心に集積が進んでいる。withコロナにおいても、交流・対面によるインタラクションは改めてクローズアップされることとなるだろう。大企業とスタートアップの協業が起こり、イノベーションが起こる。その流れを当社は引き続き支援していきたい」。
【大丸有スタートアップ・レポート】では、「大丸有エリア」と呼ばれる日本随一のビジネス街、大手町、丸の内、有楽町に集う期待のスタートアップ企業を紹介します。新時代の日本を切り開くイノベーションの担い手となるか。要注目です。