Fromモーニングピッチ

スポーツでイノベーション テクノロジーでwithコロナの健康促進にも貢献

杉之尾剛太

 デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。

テクノロジーをいかしたスポーツ分野のイノベーションが期待される(GettyImages)
日本のスポーツ市場の拡大(スポーツ庁 経済産業省「スポーツ未来開拓会議中間報告」〈平成28年6月発表〉よりトーマツ作成)
オンラインでリモートピッチした登壇者の様子

 モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登壇します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回はスポーツ特集です。東京五輪の開催に向けスポーツスタートアップが台頭しているため、取り上げることにしました。

 テーマ概観を説明するのはNextCore事業部の杉之尾剛太です。日本体育大学を卒業後、マーケティング会社を経てスポーツやIT、地域の活性化をキーワードに起業をしてきました。また、福岡ソフトバンクホークスや川崎フロンターレなど、さまざまなチームをサポートしながらスポーツの活性化に取り組んできたので、こうした経験を踏まえて話をします。今回は(1)スポーツイノベーションエコシステムの動向(2)スポーツスタートアップの動向(3)日本のスポーツスタートアップの課題と強み―という観点から紹介します。

 25年のスポーツ市場、3倍の15兆円へ

 政府は成長戦略である「未来投資戦略2017」で2025年までに、スポーツの市場規模を15.2兆円へと拡大する方針を打ち出しています。これは2016年の約3倍に相当する規模で、とくに積極的に投資を進めようとする領域が「スポーツツーリズム等周辺産業」という新しい産業です。

 すでに政府の取り組みも始まっており、スポーツ庁が中心となってオープンイノベーションに関するプラットフォームを立ち上げ、人材の輩出や情報の流通によってスポーツのイノベーションを活性化させようとしています。

 自治体の動きも活発です。埼玉県や大阪府は、野球やサッカーのプロチームと連携を進めながら、ベンチャーの力を活用して地域や行政関連の課題を解決していこうという取り組みも進めています。

 民間では、次世代のスポーツビジネスを創出するアクセラレーションプログラム「スポーツテック東京」が今年から開始しました。米国の投資会社と共同で、世界的なベンチャーを輩出するのが目的です。スポーツスタートアップの資金調達も進んでいます。

 ベンチャーの力でW杯ベスト8

 次にスタートアップの動向です。日本ラグビー協会は、昨年のラグビーW杯に備えユーフォリア(東京都千代田区)が開発した「ONE TAP SPORTS(ワンタップスポーツ)」というソリューションを導入しました。これによって選手のコンディショニングに成功した結果、ベスト8入りという偉業を達成しました。

 元サッカー日本代表の鈴木啓太氏が代表取締役を務めるAuB(オーブ、東京都中央区)は、京セラ、サッカーチームの京都パープルサンガと共同研究に乗り出しました。大腸に生息する細菌「腸内フローラ」のデータを活用し、18歳以下のサッカー選手のパフォーマンス向上を目指すほか、健康経営の指標づくりやトイレで便の匂いを計測し腸内フローラの傾向を判別できるデバイスの開発を進めていきます。

 筑波大発ベンチャーのSportip(茨城県つくば市)はAI(人工知能)が取得したデータを活用して、スマートフォンによる遠隔パーソナルトレーニング事業を展開していますが、COVID-19を踏まえフィットネスクラブに無償提供を開始しました。withコロナという状況の下、運動や健康の促進、メンタルヘルスケアといった分野で貢献できるのではと、改めて注目が集まっています。

 実証実験の場が多数存在

 最後に日本のスタートアップの課題と強みです。スポーツの価値は圧倒的な感動体験を味わえる点と一度にたくさんの人を集める社会集約性、そして色々な人を巻き込むコミュニケ―ションの力です。こうした価値を踏まえスポーツイノベーションはプロダクトを出しやすく、短期間で多くの実証実験を行えるという特性を備えています。

 課題はテクノロジーやサイエンスがコアバリューになっていないケースが割と多く、グローバルという視点が乏しい点です。一方、強みは競技レベルとビジネスに対する国内外の評価が高く、学校の体育館までを含めると実証実験のフィールドが多数存在していることです。さらに超高齢化社会という社会課題がモデルケースとなっており、今後のスタートアップは(1)テクノロジーやサイエンスに強みがある(2)アジアを中心としたグローバル視点を持っている―ことがポイントとなります。今回は、こうした特性を備えたベンチャー5社を紹介します。

 HALF TIME(東京都港区)は、シンガポールのスポーツ業界特化型ヘッドハンティングファームで経験を積んだ磯田裕介代表取締役が立ち上げた、スポーツビジネスの採用・PRプラットフォームを提供しています。スポーツビジネスの専門ウェブメディアやスポーツビジネス関連職に至るまで、人材の紹介・採用代行、PRなどを行っています。

 経済的な理由によってスポーツを始めることが難しい子供たちが存在することに着目し、「mimook GOLF」というスポーツソーシャルコマースを導入したのがサイバースポーツ(東京都国立市)です。ゴルフを新しく始めたい子供たちを対象に、企業の販促活動の一環としてクラブを無償で提供するとともに無料レッスンを開催し、スポーツ環境の提供と効果的な販促活動を両立するのが目的です。

 日本発のスポーツビジネスを生み育て、世界のスタンダードにすることをビジョンに掲げているのはスポーツX(京都市右京区)で、プロスポーツクラブの多店舗展開によって経営人材の不足という課題に取り組んでいきます。具体的には「藤枝MYFC」を設立5年でJリーグに昇格させたノウハウを横展開し、日本と世界のクラブチームに質の高いサービスを提供します。

 スポーツ特化型ふるさと納税も

 SportsLocalAct(東京都中央区)は地域の活性化を図るため、ふるさと納税サイト「ふるスポ!」を展開しています。日本唯一のスポーツ特化型で、ユーザーが集まって好きなチーム・大会に納税を行い、スポーツを起点とした地域のまちづくりに貢献するのが目的です。スポーツをきっかけに地域と関わる人材を生み出し、様々な社会課題を解決する集団を目指します。

 5社目がスポーツヘルスケア分野に特化したアドバイザーマッチングサービス「BIZSPO」を展開するKeepup(東京都港区)です。企業が新たにスポーツヘルスケア分野に進出を検討する際、市場ニーズの調査から仮説の検証、開発パートナー選定までをサポートします。日本能率協会との業務協力で、予防医療関係で5万人のデータベースを保有するなど豊富なネットワークが売り物です。

 今後も新たなスタートアップが活躍する機会が格段に増えると思っています。


 Morning Pitchは、毎週木曜AM7時から開催している、ベンチャー企業と大企業の事業提携を生み出すことを目的としたピッチイベントです。毎週5社のベンチャー企業が、大企業・ベンチャーキャピタル・メディア等のオーディエンスに対しピッチを行います。 2013年1月から開始し、2019年12月時点で全300回超、累計1,500社超のベンチャー企業が登壇しています。デロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社、野村證券株式会社の2社が幹事となり開催しています。

日本体育大学卒。大手マーケティング会社を経てスポーツITベンチャーを起業。多数のスポーツチーム、競技団体、企業、行政機関、メディアのサポートを手がけた。2019年よりデロイト トーマツ ベンチャーサポート株式会社に参画。地域活性化とスポーツのフィールドで活躍するスタートアップの支援やスポーツオープンイノベーションの活性化に注力している。

【Fromモーニングピッチ】では、ベンチャー企業の支援を中心に事業を展開するデロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)が開催するベンチャー企業のピッチイベント「Morning Pitch(モーニングピッチ)」が取り上げる注目のテーマから、日本のイノベーションに資する情報をお届けします。アーカイブはこちら