Fromモーニングピッチ

物流ベンチャーが現場の課題を解決する ネット通販拡大が追い風

會田幸男

 デロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)です。当社はベンチャー企業の支援を中心に事業を展開しており、木曜日の朝7時から「Morning Pitch(モーニングピッチ)」というイベントを開催しています。毎週5社のベンチャーが大企業の新規事業担当者や投資家らを前にプレゼンテーションを行うことで、イノベーションの創出につなげるのがねらいです。残念ながら新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のためオンライン開催となっていますが、いずれ会場(東京・大手町)でのライブ開催に戻す予定です。

 モーニングピッチでは毎回テーマを設定しており、それに沿ったベンチャーが登場します。ピッチで取り上げたテーマと登壇ベンチャーを紹介し、日本のイノベーションに資する情報を発信する本連載。今回はネット通販の伸びに支えられ市場が拡大している「物流」です。テーマ概観を説明するのは、DTVSのスタートアップ支援にかかわる新規事業の責任者を務めている會田幸男です。

 相対的に高い物流投資

 日本の物流の事業規模は25兆円で、GDP(国内総生産)の約5%という非常に大きなマーケットです。企業による物流への投資意欲は相対的に高く、物流ベンチャーの投資額も増加傾向にあります。しかし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響は大きく、日本ロジスティックシステム協会によると業績が悪化した物流企業は全体の約3分の2に上ります。主力顧客である自動車産業の生産・出荷数が低下したのをはじめ、輸入量の減少や作業員の不足による稼働率の低下などが主な理由です。

 ただ、通信販売関連は好調です。今後は、倉庫内での作業やユーザーへの配達などは感染防止の対応も含めて自動化を進める傾向が強まり、利用頻度が減少した航空機やタクシーなどを物流に利用する貨客混載も増えていくと予想しています。

 拡大するラストワンマイル

 宅配コストやドライバーの労働問題に対する注目度が高まっていることも物流業界の特徴です。国土交通省によると2018年の宅配便の取扱個数は43億個。1997年比では2.7倍の水準で、この問題を改善することが非常に大きな課題となっています。

 こうした現状を踏まえると今後の物流業界は、利用者に物を届けるための最後の区間に相当するラストワンマイルの市場が大きくなる見通しです。矢野経済研究所では2020年の同市場が2兆300億円に拡大すると予測しています。18年に比べると1割以上拡大する見通しで通信販売事業の活性化やロボット・ドローン技術の発展、COVID-19の影響などが成長の要因です。

 一方で物流コストの削減も喫緊の課題です。ただ、外部委託先の見直しによってコストを圧縮するという手法は、限界に達しつつあるでしょう。これからはモノの保管の効率化や、配送時の積載率の改善など、自助努力による物流コストの削減に取り組む必要があります。

 イノベーションで労働力改善

 このような環境下で、「輸配送、保管、荷役、流通加工、梱包・包装、情報管理」という物流の6機能が抱える各課題に特化し、解決策を提供するスタートアップが市場に参入しています。例えば輸配送の課題は再配達やドライバーの不足で、倉庫内の課題は稼働率の非平準化や作業員の人件費上昇などです。つまり物流業界の課題は雇用に尽きます。雇用は労働力とイコールであるため、この領域でテクノロジーを活用してイノベーションを生み出すことが重要です。

 フリードライバーがホテルに荷物

 ベンチャーと大企業の協業事例を紹介します。倉庫と荷主のマッチングサービスを行うsouco(東京都千代田区)と日立物流は、通販事業者の入出荷業務を包括的にサポートするサービスを開始しました。配送マッチングサービス「ピックゴー」を手掛けるCBcloudはJR東日本スタートアップと提携し、駅に到着したらフリーランスのドライバーが荷物をホテルに届けてくれるという、人手不足の解消につながるサービスを提供しています。産業用ロボットのコントローラーを製造するMUJINはファーストリテイリング、搬送機器メーカーのダイフクと連携して、多品種・多素材に対応できるピッキングロボットを開発し、倉庫の自動化を実現しました。

 犬型ロボットが宅配

 海外でもラストワンマイルを巡る動きが活発です。ドイツの自動車部品メーカー、Continentalは犬型ロボットを自動運転タクシーに乗せ、同ロボットが宅配サービスを自動的に行うシステムを開発しました。まさにSFの世界です。エストニアのCleveronは自動運転ロボットによる宅配サービス事業を展開しており、電動モーターを利用することによって都市部の騒音公害と排気量を削減するのが売り物です。貨物トラックの許容積載量を3Dで分析し、積載効率の最大化を図るサービスも始まっています。

 今回は日本の物流ベンチャーの中から、ドライバー不足や倉庫内作業の効率化などに取り組む5社のスタートアップを紹介します。

 遊休空間をシェアリング

 ダイアログ(東京都品川区)は倉庫の充填率に加え、資材や人の稼働率を把握できないといった課題に対し、ロジスティクスとITの組み合わせをベースに、現場改革を進めています。データベースなどを複数の顧客で共有するマルチテナントの水平展開やバックヤードの在庫管理に取り組んできましたが、より多くの企業に利用してもらうため、SaaS型の在庫・倉庫管理システムをリリース。遊休空間にシェアリングエコノミーという概念を導入します。

 倉庫を短期間で賃貸

 一般的な倉庫契約は数年単位ですが、soucoの調査によると1年間の利用期間について荷主企業の半数以上は6カ月未満、スペースは500坪未満を希望すると回答しています。こうしたデータを踏まえ同社は、予測できなかった受注があった際に短期間で、在庫などの保管のための倉庫を借りることができるマッチングサービスを提供しています。季節による倉庫の繁閑差を利用した空きスペースの活用が可能です。

 トラックの待機時間が20分の1に

 Hacobu(東京都港区)はSaaS型の物流管理ソリューションとして、(1)待機時間でトラックを効率的に稼働させられない(2)トラックを手配しにくい(3)トラックの位置情報を把握できないーといった問題を解決するための機能を、クラウド上のプラットフォームで提供しています。トラック受付サービスの導入企業は待機時間が大幅に削減し、ある食品卸会社の事例では、導入前は78分だった待機時間が4分になりました。

 ギグワーカーも活用

 207(ニーマルナナ、東京都目黒区)の配送効率化アプリサービス「TODOCUサポーター」では、在宅・不在がわかるシステムや、配送ルートの自動算出機能を備え、利用すれば利用するほど届け先の情報が蓄積されるため、初心者ドライバーでも一定の効率を担保できる点がセールスポイントです。この特性を生かし単発の仕事を請け負う、ギグワーカーを活用したサービス「スキマ便」も開始しました。

 最適解を提供

 東北大発ベンチャーのシグマアイ(東京都港区)は、組合せの最適化問題を解く量子アニーリングマシンを活用したサービスを提供しています。COVID-19の環境下では、患者の状態に合わせ移動を最小限にした医療施設への運搬を実現しました。物流の場合、AIによるルート候補を出すことができますが、最終的な調整には難しさが伴います。このサービスはこうした課題を解決します。

 COVID-19を契機としたテレワークの普及などによって通販業者の業績は拡大しており、物流の現場では効率化を求める声がさらに強まるのは必至です。物流系スタートアップのさらなる台頭が望まれています。

グロービス経営大学院卒。2010年三菱UFJ信託銀行入社、2017年7月デロイト トーマツ ベンチャーサポート入社。東京都主催のアクセラレーションプログラムプロジェクトマネージャーを担いシード・アーリー期のベンチャー企業の支援に注力。直近では、同社の新規事業であるmeetup Sessionを立ち上げる等の自社の新規事業の立上げにも注力。専門領域は物流。

【Fromモーニングピッチ】では、ベンチャー企業の支援を中心に事業を展開するデロイト トーマツ ベンチャーサポート(DTVS)が開催するベンチャー企業のピッチイベント「Morning Pitch(モーニングピッチ)」が取り上げる注目のテーマから、日本のイノベーションに資する情報をお届けします。アーカイブはこちら