CONNECT in 丸の内

ゴミ拾いで繋がるボランティアSNS ビジネスと環境問題への対策両立に挑戦

東京21cクラブ

 「Founders Night Marunouchi」は、スタートアップの第一線で活躍する経営者から学びを得ることを目的に、三菱地所が運営する起業家支援コミュニティ「東京21cクラブ」と、イベント・コミュニティ管理サービス「Peatix」との共同開催のイベントシリーズです。2019年10月より月2回、新丸ビル10階にある東京21cクラブにて開催しており、2020年4月からはオンラインにて開催しています。

 10月21日に開催された「Founders Night Marunouchi」では、科学技術の力で環境問題に取り組む株式会社ピリカ代表の小嶌不二夫さんをお迎えしました。

 同社によると、ポイ捨てや不法投棄といった小さな行動が積み重なった結果、海に流出するプラスチックゴミは年間800万トンにものぼるといいます。まさに“塵も積もれば山となる”を体現した社会問題。プラスチックゴミが海に流出し続ければ、2050年には海に生息する魚の重量を上回る予測もあると小嶌さんは言います。

 そんな問題と向き合う同社は、ゴミ拾いでつながるボランティアSNS「ピリカ」を2011年にリリース。このSNSでは、拾ったゴミを写真で投稿することで、その活動を見える化します。これまでピリカを通して累計1.6億個以上のゴミが拾われただけでなく、同社はそれ以外にもさまざまな形で環境問題と向き合っています。今回はその原点とこれまでの苦労をうかがいました。モデレーターはPeatix Japan取締役 藤田祐司さん、東京21cクラブ運営統括の旦部聡志です。

ゴミを撮影して投稿? ボランティアSNSの誕生秘話

 「深刻な社会課題を一つひとつ吟味して、解決の糸口を発見するのが面白いんです」

 イベント冒頭、小嶌さんがなぜゴミ問題に興味を持ったのか経緯を語ってくれました。

 小学生の頃、環境問題の本を読んで、いつか自分で解決に向けて行動したいと夢に掲げた小嶌さん。その意思は消えることなく、京都大学大学院エネルギー科学研究科に進学し、環境問題の研究に打ち込みました。しかし、研究だけでは問題解決のアクションを取ることが難しく、やるせない気持ちを抱えていたと言います。

 そんな小嶌さんが起業するきっかけとなったのは、休学中に行った世界一周旅行でした。

 多くの国でプラスチックゴミが川や海に流出しているのを目の当たりにする日々。ゴミ問題の深刻さを実感するとともに、この不当に捨てられたゴミを何とかする方法はないのか、という強い気持ちがこみ上げてきたそうです。世界を放浪し、問題の深刻さを感じながら解決の手がかりを模索する中で注目したのは、さまざまな国で撮影した“写真”でした。

 「アフリカを放浪しているとき、iPhoneで写真を撮影した地点にピンが刺さる機能があることに気づいたんです。そこから、景色を残すためではなく、どこを巡ったのかを記録するために写真を撮るようになりました。そして、この仕組みを使って、ユーザーが思わずゴミを拾ってしまうようなサービスを作れないかと考え、誕生したのがゴミ拾いSNS『ピリカ』です」

 ゴミを拾った人が写真を取り、ピリカにアップロード。すると、他のユーザーから「ありがとう!」という反応がもらえ、楽しくゴミ拾いができるような仕組みになっています。

 また、ゴミ拾い活動が自動的に記録され、地域の清掃にどのくらい貢献したのかが分かるような仕組みとなっています。リリースして約9年、ピリカは世界107カ国で利用され、累計1.6億個以上のゴミを回収するまでに成長を遂げました。

 ここで、モデレーターからは「多くの国で利用されるために、どんなアクションを取ったのですか?」と疑問が投げかけられました。

 「ゴミ拾いSNSのリリース時、私が学生だったこともあり、友人の多くが海外へ卒業旅行に行っていました。最初は友人に海外でピリカを使用してもらうようお願いしたり、現地の人にも普及活動を依頼したりしました。やがて海外での利用者が増えていくと、国内でのメディア露出も多くなり、少しずつ使ってくれるユーザーも増えていきましたね」

清掃の可視化や社会貢献のPR活用でビジネス拡大

 一見、順調にサービスが成長していると思われたピリカ。しかし、その裏側には環境問題への取り組みをビジネスとして成立させるための苦悩がありました。

 「最初の導入事例をつくるまでは、とにかく様々な業界の方と話をするなど、売れる糸口を見つけるために迷走していた時期もあり、ピリカのマネタイズには約3年かかりました。初めて契約にいたったのは福井県庁さん。福井県では、清掃イベントを開催してもご年配の方ばかりで、参加メンバーが固定化しているという問題がありました。そこで、若い人たちにも出勤時間を使ってゴミ拾いをしてもらおうと、ピリカが採用されたのです」

 この福井県での事例を皮切りに、ゴミ拾いに課題感を持っている自治体での採用が続いたといいます。また、2016年には、人工知能を用いた画像解析により、ポイ捨てゴミや歩きたばこの分布や深刻さを調査する「タカノメ」をリリース。施策の効果測定や改善提案を通じて、自治体や企業と組んで環境に優しい街づくりに貢献しています。

 「起業した当時は、『ゴミ拾いSNSなんて儲からない』とよく言われました(笑)。現在は400以上の団体がピリカを利用し、売り上げは8年で70倍を達成。自治体では清掃活動の可視化、企業では社会貢献活動のPRと、様々な目的で活用してもらっています」

 しかし、小嶌さんはゴミ問題の解決にはまだまだ程遠いと語ります。

 「海にプラスチックが流出する原因は、ポイ捨てだけではありません。今最も深刻なものは人工芝です。プラスチック性の人工芝はミリ単位の小さなものであるため、雨で剥がれると下水処理場の穴をくぐって海に排出されてしまい、深刻な問題となっています」

 そこで、小嶌さんはグラウンド外に排出されてしまった人工芝を回収する技術を研究すると共に、人工芝を化粧品ボトルなどに再利用するプロジェクトも発足しています。

 「私たちの会社だけでは、ゴミ問題という大きな課題を解決できません。もちろん株式会社として利益を出すことは大切にしていますし、資金調達の手段として上場も考えていますが、あくまで目的はこの大きな課題と向き合うことです。そのため、株主となっている方たちにも『ゴミ問題の解決が遠のくなら、上場はしない』という同意のもとで仲間になってもらっています。これからも企業や行政と組んでいき、一丸となって解決に取り組んでいきたいです」

 そんな小嶌さんの熱い発言で、今回のイベントは締めくくられました。

三菱地所が運営する「東京21cクラブ」は、ビジネス・アクセス共に利便性の高い東京駅前・新丸の内ビルに拠点を構え、国内外の先端スタートアップや大企業、その他様々なプロフェッショナル約600名が集うオープンイノベーションに特化した起業家支援コミュニティです。オンラインを含むイベントやセミナーなどを通じて、ミートアップなどの企業同士の交流の場を提供し、新規事業開発支援を行っています。

【CONNECT in 丸の内】では、三菱地所が運営する国内外のスタートアップとそのサポーター約600名が集う起業家支援コミュニティ「東京21cクラブ」による、イノベーション創出支援を目的とした活動の一部をご紹介します! アーカイブはこちら