TMIP通信

不採算事業の切り出しではない カーブアウトが新規事業の創出・成長を加速

 「カーブアウト」は従来、企業の不採算事業の切り出しというネガティブとも取れる形で利用されてきた手法ですが、近年は新規事業の成長プロセスの手段としても利用されています。今回はカーブアウトの積極的な活用法を紹介します。

OSを変える手段

 今年3月、オンラインで「カーブアウト」をテーマにしたTMIPセミナーが開催されました。登壇したのはカーブアウトをポジティブに活用されている方々です。

 東京大学協創プラットフォーム開発株式会社(東大IPC)の水本尚宏氏は、企業がカーブアウトをする意味を「組織のOSを変更するための手段」と表現し、「成熟企業はその事業に最適化されたルールやカルチャーが渾然一体となっていますが、全く行ったことのない業種を行う際にはそうした土台、コンピュータでいうところのOSを変えていく必要がある」と解説。そのために行われる手法の1つが今回のテーマであるカーブアウト、と言及しました。

 「カーブアウトはオープンイノベーションを推進し、新しい事業を作っていく上で必要不可欠と考えています」

広範な企業との連携が可能に

 具体的な成功事例を最初に紹介したのはOnedot株式会社の鳥巣知得氏。中国で展開する育児メディア「Babily」を運営する万粒の代表も務めています。

 「当初はユニチャームの子会社という形でスタートしました。Babilyは中国の約40のSNSを利用して展開しているのですが、その際にメディアとしてより中立的になり、より広範な企業との協業や連携をしやすくするためにカーブアウトを選択しました。それにより、より大胆な意思決定ができるようになったり、様々な面でスピードアップが図れたりするようになりました。カーブアウト後は親会社の利益のみならず、より中立的に、もしくは相反する考え方もバランスを取りながら事業を進めていくことができるようになったのが、会社として大変大きな成長だと思っています」

 2人目は株式会社トレードワルツの小島裕久氏。トレードワルツはNTTデータの子会社としてスタートし、現在は7社が出資する貿易コンソーシアムを事業主体とする企業です。

 「NTTデータが持っているブロックチェーン基盤をベースに、各種貿易でお使いになられている貿易文書を電子化し、ブロックチェーン基盤上で流通させることを目的に立ち上げました。NTTデータは貿易の要件やノウハウがないため、当初は13社で各種の課題を抽出、また各国のプラットフォームやサービスとの連携も実施し、ジョイントベンチャー化することとなりました。それぞれの業種業態を問わず貿易に関して一気通貫でディスカッションできたことは大変有意義だったとの声も頂戴しており、各企業のノウハウを集約することによってより多くの皆様に使われるサービスを提供できると思っています」と、小島氏はカーブアウトしたことの意義を語りました。

 続いてはBIRD INITIATIVE株式会社の北瀬聖光氏。北瀬氏はNECの当時一番有望な技術とトップリサーチャーを北米dotData,Inc.にカーブアウトさせ、徹底的に強いプロダクトを作り、その日本販売独占権をNECが持つという目標で立ち上げた経験を持ちます。「NECだけではできないことにチャレンジしたい思いもありBIRD INITIATIVEを立ち上げました」と北瀬氏。

 「BIRD社はNECからカーブアウトして、子会社ではないポジションを生かした新規顧客開拓、プラットフォームビジネスを手掛けよう、大手企業各社では獲得できないような人材を獲得しようといった狙いがあります。例えば大手企業ではフリーランスの方との契約においてハードルが高い面がある。私たちは、そうした人材と適宜手を組み、目標を達成したら解散できるような仕組みをとっていきます」

 とはいえ、できたばかりの会社のため、「信用残高が積み上がっていないことや、顧客にとっては前例のない手続きなどのために少々課題があるのも事実です」と付け加え「もっとも、これも実績が増えれば解決できる」と北瀬氏は胸を張りました。

信用とスピード感に強み

 セミナーの後半では水本氏をモデレーターに、鳥巣氏、小島氏、北瀬氏、そしてデロイトトーマツベンチャーサポート株式会社の斎藤祐馬氏を加えてのディスカッションが行われ、カーブアウトのメリットやデメリット、各種課題について意見が交わされました。

 カーブアウトをする際の「元いた会社を辞めなければならない」問題について、北瀬氏は「安定しているところを捨ててチャレンジすることについて、本人は納得しているかもしれませんが、家族にとっては怖いですよね」と率直な感想。そのためのモデル作りを研究しているとのことですが、現状は確実な安定性よりもリスクを念頭においてのチャレンジであることは間違いがないようです。

 とはいえ、企業からカーブアウトして良かった点も多数。鳥巣氏は「ゼロからのスタートアップだと法務や税務が少々ゆるいままだったかもしれませんが、大企業に鍛えられていたこともあり、決裁権限を明確に定め意思決定が正しく行われるのが当たり前、などという感覚がつきました」と、大企業の経験があったからこその利点を強調しました。

 対して北瀬氏からは、「歴史ある企業では守るためのルールができがちですが、それがないことで攻めに打って出やすい、チャレンジしやすいですよね」と、独立したからこその利点も主張。また、小島氏からも「大企業では意思決定プロセスに時間がかかりますが、カーブアウトは事業を切り出しているだけに新しいサービスをスピーディに提供できる利点がありますね」との意見も出ました。

 カーブアウトの際、母体企業をどう説得するかという話題について、北瀬氏は「NECでは難しいからこそのカーブアウトだ」と判断してもらったと、粘り勝ちだったことを告白。もちろんそれだけでなく、社内で支持する声を集めたり、NECにとっても関係者にとっても価値ある道を作るから信じてほしいと熱心に働きかけも行ったそうです。

 かなりの労力だったことが想像されますが、斎藤氏も「起業家も100人ぐらい回るじゃないですか。それと同じことを大企業の中でもやれば絶対うまくいく。やってできないことはありません」と、粘ることの重要性を強調しました。

 鳥巣氏からは、説得する際に最後に重要になるのが外部の投資家の声だという指摘も。「自分たちの事業方針や事業計画を、外部の目でこれだけ可能性があると言っていただけることが後押しになります」と、自分たちもそこを重視したと話しました。

 この他、「独立系ベンチャーと比べるとカーブアウトは信用を得やすい状態でスピード感も得られることが強み」(斎藤氏)、「大企業にはノウハウや技術、知見が多数あり、ゼロからではできないものがカーブアウトならできる」(鳥巣氏)などの意見もあり、参加者全員がカーブアウトを前向きに捉えていることがわかるセミナーとなりました。メリットの多さから、今後もカーブアウトが増えていくことが期待できます。

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